第2話 異世界生活始動

異世界生活二日目。


 早めに寝たおかげで、早く目覚めた私は自身の身なりを整えるとローライトさんたちがいるであろうリビングに顔を出した。


 「おはよう、ハルナ。こちらの服も似合うね」


 リビングのソファーに座ってなにかを読んでいたローライトさんは顔を上げて私を見るとそう言ってニコニコと微笑んでいる。今着ている服はローライトさんの奥様のライラさんが若いころに着ていたものだという。

 ここに馴染むためにも、良いだろうとライラさんとローライトさんに勧められてありがたく着させてもらった。

 イメージ的にはオランダの可愛らしい民族衣装な感じのお洋服である。

 そんなかわいい服をお持ちのライラさんはキッチンでご飯作り中だ。 私は手伝うべくキッチンへ向かいながら返事をする。


 「ローライトさんありがとう。ライラさん、手伝います」


 そう言って声をかけていけば、ほんわかな雰囲気のライラさんがニッコリ微笑んで答えてくれる。


 「ありがとう、ハルナ。そこのサラダは出来てるから運んでくれると助かるわ。女の子って、やっぱりいいわねぇ」


 そんなライラさんの言葉に私はちょっぴり嬉しく思いつつ、サラダが入ったお皿を抱えてリビングのテーブルに運ぶ。


 その時、階段から男の人が降りてきた。


 「母さん、父さんおはよう。ハルナ、おはよう」


 ローライトさんとライラさんの息子でカーライドさん。歳は私より四つ上の二十三歳。

 今は村長になって忙しいローライトさんに代わって畑や村の自警団をまとめているのだとか。

 ライラさん似の穏やか好青年なお兄さんである。


 「ハルナ、もし良かったら村と畑を案内するからご飯を食べたら一緒に出掛けないか?」


 テーブルについてご飯を食べ始めるときに、そうカーライドさんに声を掛けられて私はその話に頷いた。


 「ここに来たばっかりだし、なにがどこにあるのか知りたいのでお願いします」


 私の返事にニコニコと微笑んでカーライドさんは頷くとサラリと言われたことに私はあっけにとられた。


 「ハルナは可愛いから、まずは顔見せつつもうちの子って牽制しとかないと。変な虫が着いたら大変だもんねぇ」


 にこやかな表情でしみじみとしたセリフを言うカーライドさんに、ローライトさんもライラさんも頷きながら同意を示して言う。


 「そうだな、うちの子になるハルナに変な虫は付けられんからな」


 「そうねぇ、その点では自警団のまとめ役のカーライドが一緒なら安心ね」


 などと言うのだ。


 「私、そんなに可愛くないよ?」


 私は不細工とは言わないけれど、元の世界でいえば平凡で十把一絡げなどこにでもいる女の子だった。

 しかも目指す職業的にお仕事中はシンプルな控えめメイクしかしないので、華やかになりようがないのだ。


 綺麗よりも、親しみと安心感が必要なのが保育士という仕事だと思うしね。

 それはよくわかっているので、そのことに不満はないし今まで気にもしなかったけれど、こんなに可愛いだの心配されるほどではないと自覚しているので三人の様子に困惑しかない。


 すると、そんな私の様子を見てカーライドさんはにこやかに言い切った。


 「この村ではハルナはめちゃくちゃ可愛いの。年頃男子が見たら一目惚れしちゃうくらい、この村では人気間違いなしなんだ。だからあまり一人で出歩いたらダメだよ?」


 その言葉にハッとした。

 昨日読んだ絵本に書かれていた、落ち人は好かれるってライクじゃなくってラブも含むの!?


 私のハッとした顔で言われたことの内容を察したらしいと理解したライラさんに言われた。


 「そういうことよ。だからハルナ、カーライドの言う通りしばらくは私たちのだれかと一緒に行動しましょうね」


 そんなライラさんの言葉に私は頷いて答えたのだった。


 そうして、食事の片付けを手伝ってその後は約束通りカーライドさんと一緒に村の中を案内してもらうことになった。


 カーライドさんと一緒に歩くと、この村が結構広くって田舎のちょっとした集落以上の場所だとわかる。

 だって、小さな集落かと思ったら端っこなんて見えないんだもの……。

 羊族の集落はどうやら発展しているようだと確信する。


 集落の中心地のローライトさんのお家の周辺にはお店が多く、雑貨屋さんに服屋さんにお肉屋さんなんかもあるし、果物や野菜を売っているお店もある。


 「結構、普通に町なんだね」


 私の言葉に、カーライドさんは微笑みつつ言った。


 「ここはアルアローザの中でもそこそこ落ち着いた気候と温暖な土地のおかげでみんな穏やかに暮らせているんだ。周囲も草食系の種族が多いから争いも起きないしね」


 話をしつつ村の中を案内してもらった後は、村の先に広がる農場に案内してもらった。


 そこは畑もあれば牧場もあるような広大な敷地で働く大人の傍らにはたいてい仔羊が数匹一緒にいる光景が広がっていた。


 「カーライドさん、働く大人のそばに仔羊が結構いるけれどみんな子連れで働いてるの?」


 そんな私の言葉にカーライドさんはきょとんとしつつ答えてくれた。


 「そうだね、学校に通う歳より前の子はみんな親の仕事についてくるものだよ。昨日のメロウとカロンはやんちゃな子で、親元を離れて遊びに行くからたまに自警団に捜索されたりしてるよ」


 なんとまぁ、昨日の二人はやんちゃなタイプだったのね。

 その二人の好奇心のおかげで私は見つけてもらえて助かったのだけれど。


 「学校に行くまでの間に子どもを預かるような施設はないんだ?」


 私の言葉は意外だったらしく、カーライドさんは目を見開きつつ頷いた。


 「そうだね、そういったものは無いけれどお母さん同士で助け合ってやっているんだよ」


 なるほど、地域の結びつきが強いから勉強のために学校に行き始めるまでは働きながら子どもも見るのか……。


 それって大変じゃないのかな? 私の世界みたいに保育園や幼稚園があったらきっと仕事もはかどるし、学校に行く前に集団で行動するのにも慣れることが出来るのに。


 そうか、それならお母さんたちにも聞いてみて私ここで保育園やったらいいのかもしれない!


 畑や牧場での人々の働く様子を見て、ここで私に出来ることのヒントを見つけた。

 

 そうして眺めているうちにお昼の時間になったのか、野外でもテーブルなどが複数設置されている付近に人が集まり始めた。

 カーライドさんも皆さんに私を紹介するため、人が集まってきたほうへと向かうことにした。


 「シェイラさん、マキナさん。お疲れ様」


 そう声をかけた二人のそばには仔羊が二匹。


 その二匹は私を見ると駆け寄ってきた。


 「お姉ちゃん! カーライド兄ちゃんと一緒に来たんだね! 今日も会えてうれしいよ!」


 ニコニコと寄ってきてくれたのはメロウちゃん。そのあとに少しもじもじとしたカロンくんがやってくる。


 「姉ちゃん、今日はどうしたんだ?」


 もじもじとしつつも私がここにいるのが気になったらしいカロンくんに私はしゃがんで目線を合わせて答えた。


 「今日はね、この村をカーライドさんに案内してもらっていたの。昨日ここに来たばっかりだからね」


 私の言葉に、カロンくんは一つ頷くとニッと笑って言う。


 「姉ちゃん、それならあとでトリを見よう? ヒヨコ可愛いんだ」


 そう言った彼の頭をなでて、私はニコニコと返す。


 「うん、あとで案内してね! カロンくんとメロウちゃんのお母さんですか?」


 私は彼らのそばに居た女性二人に声をかけると、頷いてくれたので私はお礼を言った。


 「私は昨日この世界に来てしまった落ち人です。カロンくんとメロウちゃんが見つけてくれなかったらどうにもなりませんでした。なので、昨日のことは大目に見てあげてください」


 ペコッと頭を下げて私が言うと、お母さんたちは少し顔を見合わせた後ににこやかに笑って言った。


 「こちらこそ、あなたが来たからもっと遠くに行かなくって済んだわ。ありがとう。この子たちは好奇心旺盛で、私たちの作業中にすぐにどこかに行っちゃうから困ってたけれど、それが人助けになることもあるのね」


 そんなお母さんたちに私は思いついたことを話してみることにした。


 「この農場や畑のそばに、子どもだけ集めて面倒を見る場所が出来たらお仕事捗りますかね?」


 そんな私の言葉に二人は顔を見合わせると、想像したらしくものすごくそうだったらいいなという顔をした。


 「子どもを見ながら働くって大変なのよ。おとなしい子だとそうでもないかもしれないけれど、うちの子たちみたいな子だとどこに行ってしまうか気が気でないし、作業ははかどらないわ」


 そんなお母さん二人に、そばに居たほかの母たちも同意を示している。


 「いくらおとなしい子でも、そちらにも目を向けてたらやはり作業ははかどらないものよ」


 そんな働くお母さんたちに私は提案してみることにした。


 「あの、そしたらここで子どもを集めて面倒をみる施設をやりたいと思うんですが、どうでしょうか?」


 その問いかけに、お母さんたちはごくりとのどを鳴らした後で言った。


 「そんな施設が出来たら私たちは助かるよ! あなたがやってくれるの?」


 その問いかけに私は頷いた。


 異世界で、モフモフちゃんたちの保育園計画が立ち上がった瞬間だった。

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