異世界もふもふ保育園へようこそ!

織原深雪

第1話 水たまりに落ちたらその先は大草原?!


 私、川瀬春奈は今日も学校での授業を終えて帰宅するところだった。

 午前中はしっかりとした雨が降っていたため、道路のあちこちには水たまりができていてそこを避けつつも避けきれないところは慎重に進んでいた時、避けきれない水たまりに足を踏み入れた途端に私はその水たまりの中に落ちるように吸い込まれてしまった。



 そうして、びっくりして目を閉じて再び開けた時には私の足元はアスファルトの水たまりからなぜかどこまでも広がる草原へと変わっていたのだった。



 「なにが起きたの?」


 私の声は、小さく風に流れてく。

 ぽつんと立ちつくす、このどこまでも続く草原に私はどこに向かえばいいのかもわからないので動くことも出来ないまま途方に暮れていた。


 そんな私に背後から可愛い声が聞こえてきて、振り返って私はこんな時なのに可愛さに悶えた。



 「お姉ちゃん、どこから来たの? あんまり見ない格好だね?」


 可愛らしい女の子の声に私は振り返るとそこに姿はなく、足元に視線を落とすとそこにはモフモフの毛の子羊がいた。 

 真っ白で、ふわふわの子羊に私は今の状況を若干頭の片隅に追いやってニコニコと答える。


 「なんて可愛らしい羊さんなの! 初めまして、私もなぜここにいるのか分からないの」


 私は可愛い問いかけに正直に答えた。これでも、保育学科に通う保育士の卵。

 動物も子どもも大好きな私はにこやかにしつつも困っていると伝えた。


 「姉ちゃん、落ち人なんじゃないか?」


 もう一匹いた子が言う。聞いてるともう一人の子はどうやらしゃべり方から男の子みたい。

 さて、落ち人ってなんだろう? 疑問顔の私に最初に話しかけてきた女の子っぽい子のほうが、あとの子の言葉に同意を示したようで首を振りつつ話し出す。


 「そっか! その変わった服も落ち人なら納得! お姉ちゃん、私たちと一緒に行こう。大人のところに連れてってあげる」


 そんな優しく無邪気な子どもたちに頷きつつ私は先を歩いてくれる二人の子たちについていくのだった。


 正直どこに向かえばいいのか、どうしたらいいのか分からなかった私には声をかけてくれた子どもたちはまさに天使のようだった。



 草原から歩いて十五分ほどで、視界が変わって柵とログハウスみたいな建物が徐々に見えてきた。


 そうして柵の前に着くころには、そこが村みたいな場所だと気づくことができた。



 「お姉ちゃん大丈夫? もう少しで大人のところに着くからね」


 ここに来るまでに歩きながら話して名前を教えてくれたメロウちゃんが振り返って言うことに私は頷いて答えた。


 「大丈夫だよ。むしろ二人はもっと早く歩けたのに私に合わせてくれてありがとう。二人は優しくっていい子だね」


 そんな私の発言に、メロウちゃんは嬉しそうでカロンくんは少し照れくさそうにしていたが二人は迷わず村の中で一番大きな家に向かって行った。


 そうして大きな家にたどり着くと、メロウちゃんとカロンくんは大きな声でお家に声をかけた。


 「ローライトおじちゃん! 大変なの! 落ち人さんだよ」


 そんな子ども二人の声掛けに、お家の中からバタバタと足音がして五十代くらいの穏やかそうなおじさまが出てきた。


 「カロン、メロウ。お前たちまた草原の奥のほうまで遊びに行っていたね? さて、落ち人とはこのお嬢さんかい?」


 それに子どもたちはブンブン首を振って頷く。

 見た目は可愛い羊なのに、その首を振る様子に私は赤べこの置物を思い出すのだった。


 「はい。川瀬春奈と言います。 歩いてたら突然水たまりの中に落ちたように感じて目を閉じて、次に目を開いたらここのそばの草原に着いてました。落ち人ってなんなんでしょう?」


 ご挨拶と共に問いかけると、ローライトさんは頷きつつ答えた。



 「大変、恐縮なのですがこの世界の神様は大変穏やかかつおっちょこちょいな女神様でして、たまーにぽやっとして異世界とこの世界を隔てる壁を緩めておしまいになってね。そんな時につながった場所にいた人は巻き込まれてこちらに来てしまうんだよ」


 大変、申し訳なさそうにいうローライトさん。それはおちょこちょいな女神様のせいで、あなたは悪くないだろうに……。


 「いや、悪いのはぽやっと女神様だから。それじゃあ、ここに来た人って帰ったりは?」


 「狭間から抜けてきた落ち人は、アクシデントでしょうが元には帰れないんです。なのでこの世界では落ち人を見かけたら保護して生活が落ち着くまで面倒を見るのが習わしです。私の家でとりあえず過ごしてください。私がこの村の長なので」


 そう告げてくれたローライトさんは優しく微笑んでそういってくれた。


 「ありがとうございます。ご厄介になります。それにしても、言葉がわかるのはありがたいですね」


 そんな私の言葉に、ローライトさんはそれも申し訳なさそうに言った。


 「うちのおっちょこちょい女神様からの落ち人さんへのごめんなさいのプレゼントが、意思の疎通ができるという言語のギフトなのですよ」


 なるほど、一応この事態を招いたことに反省はしているんだね女神様。

 私は頷きつつも、考えた。

 この世界で私はどうやって自立したらいいんだろうって……。


 大した特技もない、この世界の常識も分からない。

 これではまず自立なんて無茶である。


 私は、まずこの世界の常識を学ぼうとローライトさんに聞くと一冊の本を貸してくれた。

 それは小さな子向けの童話。 文字が読めるか不安だったけれど、見たことない形なのに見るとすんなり意味が分かって読める。

 これも、女神様のギフトのおかげみたいだ。 書くのが難しそうな文字だけれど読めて話せれば当座は問題ないだろう。


 この童話は女神様と世界の成り立ちを可愛らしい絵と優しい分かりやすい言葉で書かれているみたい。


 私はここを使ってと案内された部屋の椅子に座って貸してもらった本を開いた。


 【昔々、この世界を作ったのは創世の女神様。名はリベルタ。彼女は温かく優しい世界を願ってこの世界アルアローザを作りました。動物と人の姿になれる、優しい世界です】



 【しかし、ある日を境にこの世界は二つに分かれました。肉食な動物たちと、草食な動物たちとで離れて暮らすようになったのです】



 そこまで読んで、少し考えてそしてそうなったことになんとなく察しがついて納得する。

 肉食と草食は早々仲良く暮らせないだろう……。


 【それは仕方のないことでしたが女神は仲良く暮らせないことに悲しくなりました。そうして悲しみに暮れるたびに女神様は世界を綻ばせて異世界の落ち人を招いてしまうのです。それを申し訳なく思った女神は落ち人には言葉が分かるスキルともう一つ福音を授けました】


 なんか、これ重要っぽい……。


 次のページを思い切って開く。


 【それはこの世界の人々に好かれる、そういったスキルでした。好かれるスキルは肉食でも草食でも変わりません。これは招かれた人への身の安全のためなのでした】


 すっごい大切なスキルだった! 生きるために必要なものだった……。

 そうだよ、肉食の前に出たら下手したら捕食されて終わりだよ! 落ちたの草食のテリトリーで良かったよ!


 【そうして、女神様の授けたスキルのおかげで落ち人さんたちは世界に慣れると様々なことを教えこの世界の住人に有益なものをもたらすのでした】


 はい、ザックリとした表現いただきました!!


 有益なものってなによ? 私にそこまでのスキルはないっていうのに!


 この世界でやっていけるか少し不安に思いつつも、その日この羊さんたちの村の長のお家でしっかりご飯やお風呂も借りて落ちてきた草原から考えると大変文明的な生活が出来ました。

 ここでの生活の常識なんかのあれこれを学んでから、なにができるかも考えていこうと今日は早々に寝てしまうことにしたのだった。

 異世界転移一日目はこうしてあっさり目に過ぎていきました。



 

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