10本目 エリアボス戦



 配信の挨拶もそうそうに切り上げて、わたくし達はこれからのボス戦の打ち合わせをした。


 これで、おおよそのスキルや戦闘スタイルはこれで共有できたはずだ。

 ひとまずは前衛のノルセさんは自由に立ち回り、後衛のわたくしが要所で指示を出すという形に落ち着いた。


「ファーストアタックはノルセさんにお願いいたしますわ」

「僕、そんなに強い攻撃スキル無いよ?」

「わたくしも攻撃スキルをあまり持っていませんの」

「あ、そう言えばそうだったね」

「七色龍のスキルも補助スキルしか発現しておりませんので、基本的にダメージソースはノルセさんにおまかせすることになりますわ」

「りょーかい」


 そう言ってノルセさんはオークに近づいていく。小柄なノルセさんが巨大なオークに怯むことなく近づいていくさまは、小さな背中がとても大きく見えるほどに頼もしい。


「わたくしも準備をいたしましょう」


 まずは浮いているもふをボス付近に待機させる。攻撃が当たりにくいようにボス上空に配置した。


「もふ、頼みますわよ」


 いざというときの希望があのもふだ。


 話に聞くオーク強化後のジャンピング斧叩きつけ衝撃波攻撃――ノルセさん命名――の対策になるかもしれないスキル発動の鍵がもふなのだ。


「いくよ、デニッシュ。【獅子しし】、【奮迅ふんじん】、両方とも発動」


 ノルセさんが七色龍のスキルを使っている様子が見える。直後、彼女はうす青色のオーラをまとった。

 あれは【獅子】と【奮迅】というスキルで、二つとも『一定時間、攻撃力を上げて防御力を下げる』という攻撃特化のスキルだ。

 二つを別のタイミングで使うことで継続戦闘をしやすくすることもできるし、今のように同時に使って短時間の攻撃力を大幅に増加させることもできるスキルだ。


「ノルセさんの七色龍は、羽の生えた焦げ茶のリスのような見た目でしたわね。戦闘中は彼女のポケットに入っているらしいですわ」


 基本的には支援型のスキル構成で、スキル発動をするときだけぴょこりと頭を出すという話だ。

 とてもかわいい……が、改めて龍とはなんなのだろうと思う。

 災厄の龍はあからさまにドラゴンという感じであったが、もしかすると龍という名前はミスリードなのかもしれない。考察班はどんな情報を手に入れて、どんな考察をしているのか気になるところである。


「みみこさーん、準備はおーけー?」


 いけないいけない、今は戦闘中だった。考察はあとにしておこう。

 セカンドエリアに行けさえすればさらに情報が手に入るはずである。だから今は目の前のボスに集中する。無茶なのはわかっているが、かと言って諦めるわたくしではない。


「良いですわよ! 打倒エリアボスですわ!」

「りょーかい! いくよー!」


 ノルセさんがカタナを構え、溜めの姿勢に入る。

 どうやら戦士のスキルには溜め技を放つスキルがあるらしく、普段はほとんど使う機会がないが敵が隙を見せたタイミングで使うと大ダメージが与えられるとのことだ。


「わたくしも続けて狙いますわよ」


 スキル【強撃付与】を発動する。これは狩人のスキルで、さきほどノルセさんを助けるために使った【閃光付与】や【煙幕付与】と同じく、遠距離武器や遠距離攻撃、投擲アイテムなどに付与するスキルだ。効果としては、ダメージを大幅に上げるというシンプルで使いやすいスキルとなっている。


「くらえー!」

「すぅ……ズドンッ! ですわよ」


 ノルセさんが掛け声とともに、カタナでオークを斬りつける。

 わたくしもカタナの一閃に合わせて【強撃付与】がされた魔法弾を放つ。


「グルァァァアアオッ!」


 オークが叫ぶ。その雄叫びは怒りゆえか、あるいは苦しみゆえか。

 間髪入れず、わたくしは通常の魔法弾を生成してリロードする。


「続きますわよ!」


 ノルセさんはずっと右足を斬りつけている。部位破壊を狙うとのことなので、わたくしもフォローするために右足の付け根を狙って撃つ。

 ヘイトはやはりゲーム内DPS最強プレイヤーのノルセさんに向いている。魔法アサルトライフルの弾倉に入るのは二十六発。ヘイトがこちらに向かないのを良いことに、弾倉に入った弾薬をすべて撃ち尽くす。


 オークはわずらわしそうに斧を振り回して動き回っている。

 しかし、わたくしとノルセさんのプレイヤースキルをもってすれば特に問題無くさばける程度の動きでしかない。


「動き回ろうと無駄ですわ! わたくしが何年も鍛え続けたエイムきんを前には些細な動きなどあってないようなものですことよ! おーっほほほ!」

「みみこさん普段そんな笑い方しないよね?」

「おだまりなさいまし!」


 激しく剣戟けんげきを振るいながら冷静にイジってくるノルセさんの器用さに感心する。気安く掛け合いをしながらというプレイングはあまりしたことがないので、わたくしにとってもそうだが、視聴者たちにとっても新鮮なことだろう。

 ゲーム内できちんと知り合ったのはついさっきだったとしても、気の置けない仲の友人ということで気楽に楽しくプレイができている。


 パーティーでボスと戦うという緊張感で鼓動が加速する。

 VRFPSのような一瞬の駆け引きですべてが決まるヒリヒリとした緊張感とは違う、この燃え上がるような緊張感がVRMMORPGの醍醐味なのかもしれない。


「このままいくよ!」

「承知いたしましたわ!」


 あとはもうルーチンだ。わたくしの魔法弾の威力がノルセさんのラッシュの威力を上回ることはなさそうなので、ときどきオークがランダムに岩を投げて遠距離攻撃を仕掛けてくるとき以外は安全に撃ち続ける事ができる。

 ノルセさんが被弾したときは【閃光付与】や【煙幕付与】でカバーして、その間に距離を取って回復してもらう。

 大きなオークを翻弄するノルセさんの華麗なステップに見惚みとれそうになりながら、フレンドリーファイアーだけはしないように撃ちまくる。


「いいよ! 多分右足の損傷度が上がってきた! ちょっと右足の動きにラグがある!」


 ラグとはつまり遅れのこと。右足に致命的な影響が出始めているということだ。


「そろそろですの!?」

「わからない! でもそうかも!」


 戦闘開始してからどれくらい経っただろうか。かなりの時間同じことを繰り返した気がするが、実はそんなに時間は経っていなかったかもしれない。

 対人戦や高度AI戦と違い、敵が裏をかいてこないから非常にやりやすい。これについては初期エリアのボスだからということもあるだろう。

 今後は裏をかいてくる敵や戦闘中に学習してくるような敵も現れるはずだ。前作でもストーリー後半の敵になるにつれてAIの性能が上がっていったと聞く。


「強化、来ましたわ!」

「おっけー! 離れる!」


 スコープ越しにオークの目が赤くなったのを確認する。

 第二フェーズ。ここからが本番だ




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る