7本目 エリアボスの前
「『エリアボスを倒せると思う?』ですか。そうですわね。倒せたら嬉しいですけれど、さすがに今回の挑戦で倒せるとは思っていませんわ」
西の平原に敷かれた長い街道を歩く。街道の付近のモンスターはそこまで強くないため、基本的には暇な時間が多い。
そんなわけでわたくしは、配信視聴者との雑談半分、エリアボスのおさらい半分で話しながら進んでいた。
「そもそも、いまだに攻略組がこのエリアボスで停滞していることからして、何か攻略に重要な要素を見逃している可能性が高いのですわ。今のわたくしがソロで倒せるような相手とは思いませんわよ」
何を見逃しているのか、何が攻略に欠けているのかはよくわかっていないのが現状だ。実は攻略に必要なピースはすでに揃っていて、プレイヤースキルだけ足りていないということもあり得るかもしれない。
「評判を聞いて他ゲームのプロプレイヤーやトップ層のeスポーツプレイヤーが参入し始めているようなので、攻略も時間の問題じゃないかしら」
なにせ世界に誇る人気RPGシリーズのeスポーツ化作品だ。多くのプレイヤーがどんなものか気になって様子を見ていたに違いない。
そこに来て、発売日からプレイしているプレイヤーがめちゃくちゃに楽しんで話題にしているのだ。我慢できなくなったプレイヤーたちがつい買ってプレイしてしまうのも無理はないだろう。
ちなみにわたくしもSNSで話題にした。もふもふと遊んでいる写真は毎日投稿している。
「ああ、いえ、別にエリアボス討伐を諦めたわけではありませんわ。一応できる限りの準備はしております」
『今回は様子見?』という質問があったので回答する。わたくしはいつだって最強のお嬢様。様子見なんてまどろっこしいことはしないのだ。
「今朝の特訓配信を見に来てくれた方ならご存知かと思いますが、魔法銃でひたすらエイム練習をして感覚を調整しましたわ。装備も現状で揃えられる最上級の装備ですのよ」
装備を揃えるのは、魔法銃を作ってくれたカナちゃんさんにお願いした。どういうコネなのかわからないが、最前線でも通用するような狩人装備を整えてくれた。
その代わりとして、エリアボス戦やセカンドエリアの探索で手に入れた素材を
「エリアボスは、ファンタジーと言えばド定番の大きなオークらしいですわね。序盤はパーティで連携さえ取れればなんとかなるらしいのですが、途中で大幅に強化されるらしいんですの。そこからがなかなか突破できないと攻略組の方が言っておりましたわ」
攻略組の方とぼかしたが、以前ギルド本社前で知り合ったサダケンさんのことだ。
わたくしは最初、攻略掲示板などを漁って情報を得ようとした。しかし、情報が雑然としていることと、攻略組があまり情報を放出しないことから、どれが有力な情報か判断がつかなかった。
そこでサダケンさんにダメ元で聞いてみたところ、ボス戦の概要を教えてくれたのだ。
サダケンさんいわく「きちんと情報公開をしても良いが、攻略にかかりきりでやれていない」とのことだった。
最新の情報を集められる攻略組と、情報公開が得意な考察班の連携があまり取れていないようだ。クラン制度が解放されたらそのあたりもどうにかしたいとも言っていたので、状況が落ち着けばもっと情報は手に入りやすくなるだろう。
「今回は開けた場所での戦闘ですわ。森の中での戦闘と似たような苦労はしないで済みますの」
エリアボス戦は見晴らしの良い草原で行われる。もちろん、見晴らしが良いということは相手のみならず自分たちも隠れる場所が無いということなので、気をつけて立ち回る必要がある。
ただ、遠距離型プレイヤーとしては、開けた広い場所での戦闘は基本的に歓迎すべきことだ。自分が隠れられる多少の障害物があるとなお良い。
最初にエリアボス戦の場所を教えてもらったとき、わたくしはとても安心した。森じゃなくて良かった。本当に。
「あの大岩がボス戦のフィールドの目印らしいですわ。……あら、先客がおりますわね」
ボス戦のフィールドの手前にある大岩でプレイヤーが立ち話をしているようだった。二パーティ程度いるようだ。
遠目でも装備が上等なものであることが伺えるので、まず間違いなく攻略組だろう。攻略の前に情報交換をしているのかも知れない。
「わたくし、良いことを思いつきましたわ。おほほほ」
街道近くにあった岩で身を隠し、大岩のそばにいるプレイヤーの方へともふを飛ばす。
「わたくしが何をするか、皆さまはおわかりですか? ……情報をこっそり仕入れますのよ」
『それは笑う』
『うわww』
『お嬢様の悪いところが出ちゃった』
『なんでブレファンにまで来てスペフォーみたいな情報戦やってるのww』
コメント欄が沸き立つ。あまり褒められたことではないかも知れないが、攻略組が初期討伐報酬である称号獲得のために情報を流さないのが悪いのだ。わたくしは悪くない。
そんなことを視聴者に言いながら、もふが大岩のプレイヤーたちの視界にできるだけ入らないように近づけていく。
「これだけ近づければ大丈夫でしょう。【ウインドシールド】を使いますわ」
もふに意思を伝えた瞬間、音が二重に聞こえるようになる。わたくしが直接聞いている音と、もふが聞いている音だ。
「ん? 様子がおかしいですわね……」
聞こえてきた会話内容は、わたくしが予想していたものとは違って剣呑なものだった。
『ノルセちゃんさあ、もう何度も言うけど、配信やってるならイメージが大切なんだよね?』
『ノルセちゃんの配信見たけど結構口悪いじゃん』
『配信外で人に暴言吐きまくってるとか、攻略組の邪魔したとか、そういう噂流されたらすぐ広まっちゃいそうじゃね?』
女性一人と、男性二人との声が立て続けに聞こえた。どう好意的に捉えても物騒だと感じられるセリフだ。
『なに? それで脅してるつもり?』
聞き覚えのある声。これはおそらく、この前ギルド本社前で男性四人のパーティに絡まれていた少女の声だ。会話の内容からしても、絡まれていた少女――ノルセさんで間違いないだろう。
「一体、どういうことでしょう……?」
わたくしは魔法ライフルを取り出し、スコープを使って遠くのプレイヤーたちの様子を確認する。
よく覚えていないので確信はないが、プレイヤーたちのうち四人は、ギルド本社前でノルセさんに絡んでいた四人組のように見える。
残りのプレイヤーは、ノルセさんと、知らない女性が二人、知らない男性が三人だ。全部で十人いることになる。おそらくは、攻略組の二パーティとノルセさんという組み合わせじゃないだろうか。
『だからよお、ノルセちゃんもエリアボスをクリアしたいだろ? ボス戦だけでいいんだから協力してくれよ』
これは四人組の一人だ。チャラチャラとした印象で、お世辞にも人が良いとは思えない物言いをしている。
『ファースト討伐の称号を譲るのは気に食わないけどさあ。もしボスを倒せればコイツらがセカンドエリアの武器を持ち帰ってくれるから、私たちはセカンド討伐が取れるってワケ。だからさあ、ノルセちゃんも協力してくんない?』
こちらは初めて見る方のパーティに所属していると思われる女性の喋り声だ。どうも四人組のパーティとはグルのようである。
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