3本目 職業



 Brave Fantasy 22 ~七色龍と大陸~ の配信を初めて小一時間。


 説明ページを流し読みしつつ、リスナーから教えてもらった情報を合わせて整理する。


 このゲームは人間の範囲に制限された身体能力でプレイするアスレチックeスポーツゲームだ。そんな人間程度の力でどのようにして剣と魔法のファンタジーを生き抜くのかということだが、ここでサブタイトルの七色龍が重要になってくる。七色龍と呼ばれる生き物たちを使役することで、プレイヤーの能力を補うのだそうだ。


「まさかのモンスターテイマー系主人公ですか」


 ブレファンのゲームシステムにおいて、モンスターテイマー系のシステムが採用されることはとても珍しい。わたくしの知る限りこれが二回目だ。わたくしと同じように、ほとんどのプレイヤーが驚いているはず。

 少なくともわたくしのリスナーたちは驚いている。VRMMOであることや、eスポーツを目指しているということも踏まえると、かなり挑戦的なシステムだと言えるだろう。


「むしろeスポーツを目指しているから、というのもあるのでしょうか?」


 リスナーからも多少同意の声があがる。アスレチックeスポーツのルールに対応した人間の身体能力ではファンタジーができないから、相棒であるモンスターでファンタジーをするということなのかもしれない。

 カードゲームがeスポーツと認められるのだから、モンスターを戦わせるのも似たようなものなのかもしれない。


「疑問はさておいて、ひとまずキャラメイクをいたしましょう。共通規格のアバターに対応しているとのことですので、ここはわたくしのゲーム用アバターをそのまま使いますわね」


 アバターは新規で作成せず、普段から用いているアバターを登録する。身体能力が変わることによる違和感はどのゲームでも起こりうるし仕方ないが、アバターを共通化しておけば体型の変化が最小限になるのでやりやすいのだ。それに、正直新しく作るのが面倒という理由もある。


 アスレチックeスポーツプレイヤーなら、自分のポテンシャルを最大限引き出すために大抵の人がリアルアバターを用いている。

 わたくしも例に漏れずだ。わたくしのアバターは、アバター屋でボディスキャンしてもらって作成したリアルアバターをベースとしており、あまり手を加えていない。リアルのわたくし個人をやや特定しにくくするため、色彩や体型、顔のパーツに若干の変更を加えた程度で、ほとんどわたくし自身になっている。


 わたくしのVRデバイスから情報がロードされたことが通知され、目の前の空中ディスプレイの中身が次の画面へと進んだ。


「まずは職業の選択ですか」


 今作のキャラメイクはシンプルだ。種族はヒトのみ。職業は基本職業が5つ。戦士、狩人、魔法使い、僧侶、旅人だ。職業によって変わるのは使えるスキルと所持した武器に関する補正とのことである。


 職業の変更はストーリーを少し進めると可能になるらしい。職業ごとにレベルがあり、職業を変えても元の職業のレベルはキープされるとのこと。だから、以前なっていた職業に戻したとしても、レベル1からにはならず続きの段階から成長できるようだ。説明ページに書いてあった。


 転職の利点は現段階でははっきりとしていないが、きっと何かしらあるのだろう。共通で使えるスキルを覚えられるとか基礎ステータスが底上げされるとかそんな感じで。

 そして、基本職業からは様々な職業分岐があるらしい。一度分岐の条件を満たせば転職できるようになる。いくつか例も書かれていた。サムライやニンジャと言った人気のありそうな職業も例示されており、今頃多くのプレイヤーをワクワクさせていることだろう。


 と、ここまででは一般的なファンタジーRPGのような気配を感じる。


 けれども、一点気になることがあった。


 職業分岐の例の中に『ガンナー系』と書いてあったのだ。


「いやガンナー系ってなんですの? 撃っていいんですの?」


 困惑である。『突然ファンタジー感無くなって笑う』『お嬢様の時代来たわね!』といったコメントが視界の隅を流れていく。


「ぬか喜びは早いですわよ! わたくしは冷静なお嬢様。火縄銃のようなマスケット銃の可能性や、ガンナーという言葉の語源通り大砲撃ちや機関銃兵の可能性を考慮いたします。ですのでここでは喜びませんの」


『なんでお嬢様が最初からそんなに心配してるのw』

『気にせず突っ走れ』

『その不安を持つのは俺らの仕事なんだけど』

『素直に喜んどこうよ!!』

『鬼畜お嬢様が杞憂お嬢様になった』


「うるさいですわよ。わたくしは知性と気品にあふれるお嬢様。様々な可能性を考えて行動いたしますの、ふふ」


 リスナーのツッコミを一掃して真顔をキメるつもりだったけれど、やり取りが面白くて思わず笑顔がこぼれてしまう。締まらないものだ。


「結局のところなのですが、ガンナー系の職業になる方法はわかりませんでしたわね」


 説明ページに書いてないのだからわからなくても仕方がない。わたくしたちがプレイしていくうちで見つけ出すしかないのだろう。


「わたくしの予想では、狩人からの派生が最有力候補ですわね。次点で旅人からの派生ですわ。どの職業からでも条件を満たせばなれるという可能性も一応はありますわね」


 あとから職業が変更できるとはいえ、最初の職業選択は重要だ。わたくしが根っからのVRFPSゲーマーである以上、ガンナー系職業を目指すのは当たり前のこと。ガンナー系職業への最短ルートを歩みたいので、最初の職業選択では当たりを引きたいところである。


「ガンナーになりたいのですが、初期職業は何が良いと思います? 皆様はぜひコメントをお願いいたしますわ」


 ここはリスナーにもアンケートを取っておく。悩んだときはリスナーに聞いてしまうことで時短をする。配信者だからこそできることだ。


「狩人が圧倒的に多いですわね。では狩人にいたしましょう。間違えたとしてもおそらく取り返しはつきますものね」


 狩人に決定である。狩人は弓、短剣、投擲武器に補正がつく職業だ。弓には複数の種類があり、短弓と長弓に加えて、どうやらクロスボウも弓に含まれるらしい。

 わたくしやリスナーがガンナーに派生するのは狩人だと予想したのは、このクロスボウの存在が大きい。遠距離武器で、比較的直線的な軌道を描くクロスボウは、銃と近いものがあるのだ。


 クロスボウ以外に手がかりがなかったとも言う。

 

「職業の次はお供選びのようですわね。あら、こちらは質問に答えていくタイプですのね」


 ブレファン22では、七色龍をお供として戦闘を行う。同時に戦闘に参加できるお供は一体だが、五体まで連れ歩くことができるらしい。戦闘中にお供が弱ってきたらスキルで交代させることもできるようだ。

 最初のお供は質問に答えていくことで決まるらしい。ここで注意しておきたいことが一つある。体感型VRの質問はとても『くせもの』だということだ。

 体感型VRでは、プレイヤーが考えていることがそのままゲームシステムに伝わってしまう。そのため、質問と一口に言っても実は三種類の質問がある。


 一つ目が口に出したことや入力したことをそのまま答えとする質問。これはシンプルだ。テキストでのアンケートと何ら変わりはない。


 二つ目が考えていることをそのまま答えとする質問。嘘がつけないので、その人のありのままの気持ちが反映される。


 そして三つ目が、口に出したことや入力したことを回答とするが、その際に考えていることを利用して嘘を付いたかなどの情報も参考にする質問だ。


 質問に答えるとき、一つ目と三つ目の区別がつかないため、プレイヤーは嘘をつくかつかないかで悩むこととなるのだ。嘘をついて勇者っぽい職業になろうとアンケートに答えたら道化師にされた、みたいな不幸話はどこにでも転がっている。


「この質問が思考を汲み取るタイプかはわからないのですが、わたくしは正直に答えますわよ。最初の質問は、と」


 わたくしは基本的に嘘をつかず直感的に答えるタイプだ。そっちの方が楽だし。


――あなたはこのゲームに何を求めるか。


「そうですわねえ。血湧き肉躍るアツい銃撃戦ですわ!」


 そのときリスナーから総ツッコミが入ったとか入らなかったとか。


 『剣と魔法のファンタジー世界だぞ!』と。


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