7本目 END



 先日の配信は大好評だった。国内のMineTubeマインチューブ週間配信視聴者数ランキングの上位に載ったし、カット編集した切り抜き動画はいつも以上に再生数の伸びが良い。


 その一番の原因がうまくいったプレイ内容の部分よりも、屋外で調子に乗って無線を入れたことで死んだときの「やっちまった、ですの」の部分だということは釈然としないが、配信者としてはとても美味しかったシーンだと言えよう。


 もちろんカット編集した動画でもそこを引き立てるように編集した。自分で見ても笑ってしまうくらい、その数秒前との落差がすごかった。


 ちなみにマッチ自体には勝利した。あそこから負けていたらわたくしはショックでブチギレ申し上げていたことだろう。主に自分の不甲斐なさに。


 あの状況をあとから配信録画で見返してみると、わずか四パーセント程度のHPの差がすべてを分けていたことがわかった。あと二秒あれば建物までたどり着いたのだ。ほんの少し体力が足りなかったことが、ゲーマー的には悪い方に、配信者的にはある意味でに状況を変化させたのであった。


「プレイヤーとしては複雑ですわね」


 とは言え、これもまたゲームだ。この悔しさ、楽しさ、面白さは、ゲームだからこそ味わえるものである。


「これでスナイパーとしての知名度も上がりましたし、名実ともに国内トップスナイパーを名乗ってもよろしいのではありませんこと?」


 副次的にだが、わたくしのスーパープレイが多くの視聴者の目に触れたのだ。コメント欄では「やっちまった、ですの」をいじるコメントに混ざって、スナイパーとしての上手さに触れてくれているコメントがたくさんあった。一番多かったのは、スナイパーとしての腕を褒めつつ最後の失敗をいじっているコメントだったが……。


『砂でこんなにキル取れるゲームだっけ?』

『鬼畜お嬢様、相変わらずリスキルが鬼畜すぎる』

『めちゃくちゃうまいのに最後で全部持ってかれたww』

『死んだとき素が出ちゃってますよお嬢様』


 こんなコメントの数々に、わたくしは嬉しくなるのだ。わたくしの動画を見てくれて、楽しんでくれたということに。そしてわたくしを評価してくれたということに。


 チャンネル登録者数も大幅に増えた。最近では一日に数百人が平均の増加数であったが、例の配信のカット編集動画を上げてから一日に平均して千人以上もチャンネル登録者が増えていた。


 正直なところ、オチの部分がきっかけで伸びてくれることは悪いことではない。一度「みみこお嬢様はスナイパーライフルの人」という印象が高まりすぎてしまうと、わたくしがスナイパー以外のプレイをしたときに「あれ、なんか違うな」という印象を与えかねないからだ。

 わたくしのヘマを面白いと思ってくれるのであれば、それをまた期待して配信を見に来てくれるかもしれない。そして別の面白い点を配信の中に見つけてもらえて、継続的なリスナーになってくれるかもしれない。プレイで魅せるのはそれからでも遅くない。


「なにせ夜の時間帯は多くの配信者が群雄割拠している激戦区ですもの。その中でわたくしを選んでくれるようになる可能性が増えるだけで嬉しいことですわ」


 もちろん、人が増えればそれに伴う収益も増えるわけで、わたくしが安定して配信でご飯を食べるという夢に一歩近づくことになる。


 動画配信市場は今や何十年も前のテレビジョンを超える一大メディア・コンテンツになっている。広告の効果は非常に高いし、企業の宣伝媒体として第一線にあるのだ。そりゃあ広告料もうなぎ登りである。それゆえに、企業イメージを担保することになる配信者は、コンプライアンスには気を使わないと良いスポンサー広告が付かない。このあたりのさじ加減が難しく、攻めた内容の方が短期的にはウケやすいが、優良なスポンサーが敬遠してしまい再生数の割に儲からないことがある。


 わたくしは比較的暴力描写が多いVRFPSゲームを主戦場としている都合上、子ども向け製品を販売する大手企業などのクリーンな印象が必要な企業からはスポンサー広告が付きにくい。ゲームジャンルの配信では子ども向けの大手企業がかなり美味しいスポンサーなので、その点は痛手である。


 ただ、わたくし自身は度の過ぎた罵倒や差別用語を発することがないし、汚い言葉も極力使わないようにしている。そういった『お嬢様イメージ』はプラスに働いているようで、比較的優良な企業からスポンサー広告を貰えることがあるのだ。最近だと体感型VRデバイスも販売しているコンピューター関連の国際的大企業から広告を出してもらえることが多く、良い収入になっている。とてもありがたい。


「スポンサー契約もそろそろ受けたいですわね」


 また、今までは受けてこなかったが、そろそろスポンサー契約やプロモーション動画の契約を受けても良い時期かなと考えている。ついに、わたくし個人の意思で契約を結べるようになる成人を迎えるからだ。

 弟には配信をしていることはバレているが、両親には知らせていない。成人までは契約に親権者の同意が必要なため、これまで契約することが出来なかったのだ。

 別に知らせたら配信者をやめさせられるということは無いと思う。単純に気恥ずかしくて知らせることができていなかっただけである。そのままズルズルと内緒にしている。

 成人すれば他にもいろいろな事ができるようになるが、それはまた後回しにしようと思う。例えばお酒はいつでも飲めるが、配信はいつでもできるわけではない。いつだって配信は鮮度が大事だから、しばらくは学業と配信に専念したいところだ。


「まあ契約の話なんて来ていないのですけれど」


 問題があるとすれば、わたくしにはスポンサー契約の話が来ていないということである。スポンサー契約とは、その企業の名前を配信画面に表示したり、その企業の製品を使ったりして宣伝する代わりに、毎月契約料をもらったり、配信機材の提供を受けたりする契約のことである。今どきの配信者、特にeスポーツゲームの配信者は複数の企業からスポンサー契約を受けているケースが多い。


 eスポーツゲームの配信者からすると、安定した収入源は生活のために欠かさない。eスポーツゲームの配信者はゲームの流行によって収入が左右されることが多く、また流行に乗って新しいゲームを始めるにしても、そのゲームでプレイを魅せられるくらいうまくなるには時間がかかる。

 特に大会に出場するような『プロゲーマー』と呼ばれる人たちは、配信時間だけではなく練習時間も多く必要であり、スポンサーがいないと食べていけないことが多々あるのだ。


「まあプロゲーマーはたいていチームに入ってるので、逆に安定してますわよね」


 プロゲーマーの多くはプロゲーミングチームに所属している。企業はそのチームとスポンサー契約をし、チームがプロゲーマーたちに契約料を支払うということが多い。

 企業としては多くの人とまとめて契約できる上に、大抵のチームには契約に関して詳しい専門の担当者がいるので、個人と直接契約するより安心感を持って契約できるのだ。『プロ』というだけ人気があるため、宣伝効果も高い。

 プロゲーマー側としても、契約に関する面倒な手続きをする必要が無く、チームがマネジメントをしてくれるので安定して活動ができるという利点がある。


 もちろん、その配信者が話の面白さやキャラクター性で売っているケースはあるし、その場合は比較的どんなゲームをやってもある程度の再生数を取ることができるので、そこまでスポンサー契約は重要ではない。重要ではないとは言え、収入源が一つ増えることは喜ばしいため、結局スポンサー契約を結ぶことが多い。


 わたくしの立ち位置としては、eスポーツゲームの配信者要素が7割、面白い系配信者要素が3割というくらいの位置だと思っている。だから、できればスポンサー契約をして安定した収入を確保しておきたい。それなのに、三年も配信者をやっていてスポンサー契約のお誘いが来ないのはどういうことなのか。


「わたくしはイロモノ枠だと思われているのでしょうか。ぐぬぬ……ですの」


 まだまだ、わたくしが配信だけでご飯を食べるには遠いらしい。





Playlist01 わたくし、ちょっと有名なゲーム配信者ですの 終 


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