第1281話 でも、楽しかったしいいか。的なお話

午後からはこれを使おうかな。


ーーヒュンヒュン


うーん。

やっぱり久しぶりだからかぎこちない気がするなぁ。


「午後からはそれを使うの?」

「ああ。そのつもりだけど、久しぶりだから暫く1人でちょっと練習してるから先にやってて。」

「それだったら僕も釘バットでやろうかな?」

「いやあの、釘なしでお願いします。流石に死ぬ。」

「あ、それもそうだね。でも釘バットなのに釘がないのは変じゃない?」

「いや、普通は釘がないから。なんかこの世界では釘バットが普通に流行ってるけどさ……。」

「それは知ってるんだけどね……。」

「所で、バットなんて持ってないけどどうするんだ?」

「あー……えと、レント作れたりしない?」

「本来のバットは硬くしなやかな木を長期間乾燥させて、その上で削ってるらしいから、形だけならなんとか。強度はそこまで良くないだろうけど。」

「まあ、当てるつもりはないしそれでいいよ。」

「分かった。」

「じー。」

「……はいはい。リリンのバールのようなものもだな。」

「ん。」


木屑を道場内に落とすわけにもいかないので外で作業をする。

材料はストレージ内に適当に放り込んである木。

多分野営の際に邪魔だからとストレージに放り込んだやつだと思う。

剣で大まかな大きさまでカットしそこから短刀で削っていく。

細工とストレージ、そして短刀の斬れ味のおかげで予想よりも早く作ることが出来たが、それでもバットとバールのようなものの2本で1時間くらいかかった。

最後のヤスリがけに時間をかけ過ぎた。

だが、セフィアとリリンの手を傷つけるわけにもいかないしそこは丁寧にやらないとな。


出来たバットとバールのようなものをセフィアとリリンに渡して俺は自分の訓練をする。

街の人達に囲まれて、お昼を食べてそこから武器作りで3時過ぎになってしまったか。

移動の時間も考えると後2時間ほどしか出来ないし、集中していかないとな。


剣のように持っての打ち込み、槍のように持っての突き……からの薙ぎ払い。

そして一回転させての打ち下ろし、打ち上げ、屈みながら一回転しての足払い、立ち上がりながらの打ち払い。

各動作の繋がりの流れがちょっと悪いか。

剣のように持っての動きはいいとして、問題は突きと払い。

槍も薙刀も経験がないからなぁ。


ま、そこまで深く考えなくてもいいか。

持たば太刀、突けば槍、払えば薙刀。杖は各のいずれも外れざりけり。

だったかな。

ただの棒だからこそ、無限の変化があり、そしてそれは俺の千変魔杖術にも表れている。

流石に魔力での変化はさせないけど、それでももっと自由にやっていいはずだ。


「ふっ、はっ、やっ、とぉっ、せいっ!」


杖を自由に、思いつくまま気のままに振っていく。

千変魔杖術はユニークスキル。

過去に持っていた人がいたかは分からないが、それでもユニーク……つまりは自分だけのスキルだ。

こうであるべきという決まりはない。

宇◯CQCじゃないが、俺が信じたものが俺の杖術だ。


時に苛烈に、時に舞うようにして杖を振るっていく。

そうしていく内に次第に杖が手に馴染んでいくのを感じる。

まるで自分の手足のように。


「レントー。そろそろ帰るよー。」

「え? うわ! もうこんな時間!?」


思いつくままに杖を振っていたらいつの間にか5時過ぎになっていた。

うわー、全然気付かなかったよ。

どんだけ熱中してたんだよ俺……。

結局午後は模擬戦出来なかったな。

でも、楽しかったしいいか。

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