第1280話 また訓練といきますか。的なお話
お昼を求めて訓練を一旦中止して街へと繰り出す。
そして囲まれる。
しまった……変装するの忘れてた。
っていうか、変装してないだけでこれかよ。
「英雄さん、サイン下さい。」
「握手して下さい!」
「うほっ、いい男。」
「ちょっとそこでお茶しませんか?」
「あの、英雄演舞、かっこよかったです!」
ちょっと待って。
今変なの紛れてなかった?
というか、めっちゃ悪寒を感じる視線があるんだけど!
背筋がむず痒いんですけど!
「すみません。お昼を食べに出ただけで、また午後から訓練をするので道を開けてもらえないでしょうか?」
「そういう事ならウチで食べて行ってよ!」
「それならウチで!」
「これを持って行ってくれ!」
「あ、その手があったか! ならこれも!」
「ウチのも持っててってくれ!」
お昼を食べに来たと言えば、お店をやっているであろう人たちが次々と声を上げていき、終いには露店か何かをやってる人達が商品をどんどんと持たせてくる。
うーむ。
困ったなぁ。
断る暇もまなく持たせてくるし返そうにも次から次に手の中に乗せてくるからどれが誰がくれたのか……。
もう貰うしかないのか……。
両手で抱える程の量を受け取ってしまった以上は向こうの要望に応えるしかない。
押し付けてきたんだから無視すればいい、と考えられればいいんだけど、それが出来ない人間なんで。
サイン……サインねぇ。
サインなんて考えてないぞ。
書類にするサインとは訳が違うだろうし、英語の筆記体とかで誤魔化せないかな?
無理か。
流石にこの世界にない言語を使うのは不味いだろうし……普通に名前を書くしかないか。
サインを1人に書けば俺も私もと人が殺到。
有名人は大変だ。
芸能人の人達はしょっちゅうこれをやっているのか……凄いな。
握手も求められていたな。
俺なんかと握手してもなんのご利益もないんだけど、感覚としては街で芸能人を見かけたらつい声をかけてしまうみたいな感じなのだろう。
この世界にはテレビも何もないから身近に感じられない。
だからこそ、名が売れた人と触れ合えるというのは特別な物なのかもしれないな。
その対象が俺だというのには違和感しか感じないが。
ちなみに変な視線はガン無視だ。
俺にその気はない。
普通に女の子が好きだし。
というか周りをよく見て。
ハーレムだから。
ハーレム形成してるから。
だからそんな俺の股間を凝視しないで!
尻もそういう用途では使わないから!
押し寄せるファン達(多分)をなんとか捌き切った時には精神的疲労がかなり溜まっていた。
やはり慣れない事は辛い。
俺の腹の虫が盛大に鳴いたお陰なのは複雑な気分だけど。
流石に空腹の人間を餌を抱えさせた状態で拘束するつもりまではない模様。
「なんか、凄かったね……。」
「本当にな。まだ暫くはこれが続くとなると気が滅入ってくるよ。」
「今後も変装が必須だね。」
「だな……はぁ……。めんどくさい。」
しかしちょっとした手間で大ごとになるのは避けられるしやらない手はない。
めんどくさいけど。
また捕まったらたまったもんじゃないし、さっさと道場の方に戻ろう。
なんだかんだで1時間以上時間を使っちゃったし。
でも、これだけ時間が経てば流石のミコでも待っていたりはしないだろうし、いつもの場所も気楽に使えるな。
周りの人の迷惑になるから走ったりはしないが、気持ち速めに歩いて道場に向かいそこでようやくお昼タイム。
押し付けられたとはいえ貰った物を無駄にするのは勿体無い。
ちゃんと美味しくいただくさ。
醤油の香りや味噌の風味がするので自然と手が伸びていくし、決して無理してるわけじゃないよ。
「ごちそうさまでした。」
どれも美味しかった。
さて、それじゃ食休みをした後はまた訓練といきますか。
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