第1164話 ちゃんと胸を張れるくらい。的なお話

道場に戻ってすぐに自主練を開始して、そして終了した。


「横っ腹、痛い……。」


ちょっと考えれば分かる事だろうに……何やってんだよ俺。

紅白巫女とのやり取りと稽古がうまくいかない焦りのせいだとは分かるが、少しくらい休むべきだったと今更ながら後悔してる。

いや、後で悔いるわけだから今更も何もないんだけど。

むしろ今更でしか成立しない。


なんてアホな事を考えているとキリハさんがやって来た。

早いな。

まだ誰も戻ってきてないんだけど。


「一体どこに行ってたんですか?」

「はい?」

「一緒にお昼を食べようと探したのにどこにも居なかった事を言っているんです!」

「どこって普通にお昼を食べていただけです、けど……?」


なんで俺と一緒に食べようと思ったんだよ……?

まさか、これが噂のモテ期!? なんて、そんなわけないか。

理由は分からないが、一緒に弁当を食べようとしたという事だけは分かった。

分かったが、俺が居たのは普通に庭で探したのであれば間違いなく探すであろう場所。

それなのに分からなかったという事はつまり……紅白巫女の話していた結界の話は本当だったのか……。

てっきりそれも何かの冗談だと思ったのに……。


「敷地内のどこを探してもいなかったし、外に食べに行ったのは分かってますよ?」

「え、いや普通に庭ですけど。」

「……え?」

「だから、庭で食べたって言っているんです。」

「そういえば庭がありましたね……なんで私はそんな簡単なことに気付かなかったのかしら……?」


いやほんと、なんで弁当を食べるだけでそんなに本気出してるんだろうね?


「そんな事よりもなんで一緒に食べようと思ったんですか?」

「1人よりも2人の方が美味しいからです。でも、他の人だと面倒そうなのであなたが良かったんです。結局見つからずに1人でしたけどね。」

「そ、そうですか……。」


うまく言葉に出来ない……。

ここでなんと言っていいのか……?

俺にはそんな能力はないぞ?


気まずい雰囲気が流れている間に次々と人が戻ってきたのでこれ幸いと一声かけて離れてもらった。

1人と親しくしすぎるのは良くないだろうし。


そして午後の稽古が始まったわけだけど、残っている動きは午前にやったやつの焼き増しっていうとあれだけど、似た動作なのでちゃんと出来れば問題はない。

ちゃんと出来ればね。

それよりも問題なのが、1回目と2回目3回目の動作が頭の中でごっちゃになってしまう事。

歌を歌う時に1番2番3番が頭の中でごっちゃになる感じに似てる。

こればっかりは数をこなして覚えるしかない。


最後に決着をつける一太刀を教わり全ての動作が終了。

残った時間は全て自由に使っていいそうなので気になるところを重点的に練習する。

練習するが、やはりスピードと演技に苦戦。

そもそも全力を出している風に見せながら手加減をするというのが矛盾しているんだよ。

ゆっくり走るのと全力で走るのではフォームが全然違ったりするものだが、まさにそれ。

動きに差が出てしまって手加減しているとモロバレなのだ。

果たしてこんな調子で大丈夫なのかと不安になる。

不安になるが、泣いても笑っても明日の三次試験で最後だ。

頑張ろう。

今まで頑張ったって、ちゃんと胸を張れるくらい。

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