第1165話 さて、やるとしますか。的なお話

朝。

今日で試験も最後という事もあり他の人も気合い十分なようでまだ開始時間まで結構あるのに意外と多く集まっている。

俺と同じように朝から自主練をしにきたんだろう。

今日がこれまでの成果を最終判断されるだろうしみんな本気なんだろうな。

俺も負けてられない。


まだまだ不安な部分もあるけど、まずは一通りやって記憶の確認。

ここで記憶が曖昧な箇所があったら始まる前に指導役の人に確認をしておきたい。

序盤の方が怪しかったが、いざ始めてみれば案外体は覚えているもののようで、記憶が怪しくても最後までやる事が出来た。

何回か繰り返していけばどんどん記憶が蘇ってきてそこは安心出来るようになった。

後は……やっぱり途中でのスピード感と本気感のバランスがなぁ。

今まで冒険者として頑張ってきたが、まさかその頑張りが足枷になるとは……。


そうして少しでも不安な部分を無くしていこうと頑張ってはいるが、無情にも時間が来てしまった。

くそう……。


時間になると指導役の人達だけじゃなくて、一次、二次の試験官さんや見た事ない人達が集まってきた。

人数多いが、やはり最終日ともなると試験としても重要な位置にあるんだろう。

ここまで人が集まるという事はそれだけ審査に影響しているということでもあるんだからな。


「では、これより三次試験最終日の稽古を始める。初日に言った通り今日は演者を全員集めての通し稽古となる。と言っても、演者は英雄役、竜役、巫女役の3人のみだがな。巫女役のキリハさんは既に紹介が済んでいるので、残りの竜役の者を紹介しよう。ヒサギ、前へ。」

「はい。私の名はヒサギと云う。今回は竜役という大役を賜った次第故、非才の身なれど全身全霊を尽くす所存です。以後よろしくお願い申し上げます。」

「相変わらず硬い奴だな。とまあ、こんな奴だが、よろしく頼む。では、まずは軽くおさらいをして、それから通しでやるとしよう。」


自主練で大体大丈夫だとは思うが、実際にやる前におさらい出来るのはありがたい。

そうしておさらいをして動きの最終確認をしてから演者全員での通し稽古となった。

一番手はよく知らない人。

そもそも他の候補者とは全くと言っていいほど絡みがなかったからなぁ。

顔はなんとなく覚えてはきたけど名前を知る機会は無かったし、何より自分の事で精一杯で周りの事に気をかける余裕が無かった。


一人目の人は濃い目の茶髪をした人で、その動きは今まで教わってきたものだけど、相手がいるというのは存外やりにくいのかどこかぎこちない。

そのぎこちなさは巫女役のキリハさんが参加した事でより顕著になりついにミスをした。

足を使って翻弄する時に足を滑らせて転んでいた。

あの滑り方は後で痛くなる奴だなぁ。

膝とかの皮がなんかこう、チュルンって感じになる奴。


立ち上がり演舞を続けるが、失敗を取り戻そうと焦っているのか動きに精彩さはなく迫力に欠けたまま終わりとなった。

自分でもダメだったのが分かっているのだろう。

一人目の人は首をがっくりとさせて下がっていった。


二人目、三人目とどんどん進んでいき、途中でキリハさんとヒサギさんの休憩を挟み、そして次にやるのはアルフレッドとなった。

俺が唯一知っている他の参加者という事もあり、その出来が気になる相手でもある。

果たして、アルフレッドはどこまで物に出来たのだろうか……?


そして、アルフレッドの演舞が始まった。

今まで真面目に頑張ってきた事が伺える良い演舞だ。

アルフレッドは1つもミスする事もなく演舞を終了させた。

これは、なかなかに厳しいかもしれない。


アルフレッドがやってから二人やった後、俺の番となった。

出来る事は精一杯舞うだけだ。

さて、やるとしますか。

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