第1160話 俺もそろそろ道場の方に戻ろうかね。的なお話

イメージ戦法は無しで。

みんなだと緊迫感が出過ぎてしまうだろうし、かといってキリハさんだとそんなに変化はないだろうし、ならやるだけ無駄な気がする。

演技なわけだし、それっぽく出来るように練習を繰り返せばいいだけの話だ。

ただ、近道だと思った術が近道じゃなかっただけの事。


防御に徹した後は攻勢に出る。

その時に注意すべきなのが、行動の速度。

支援魔法か何かを受けたのか、あるいは身体強化を使ったのかは分からないが、身体能力が向上していたという事はつまり、それに合わせて動きを速くする必要がある。

そうなると動きの繊細さを欠き易く、いろんな動きが疎かになりかねない。


なのでまずはゆっくりと丁寧に、動きを1つ1つ体に覚え込ませていく。

攻勢に出た時の動きを分割して見せてくれるのを真似て、学ぶ。

学ぶの語源は真似ぶってなんかで見たな。

そう、ちゃんと見て学ぶのだ。


「よし、午前はここまで。午後の稽古に遅刻しないように。」


少し進んだところでお昼とは……まだ始めたばっかなのにとは思うけど、おさらいで時間を取られたわけだし仕方ないか。

ちょっとずつギアが上がっていってたんだけどなぁ。


庭に出てベンチに座ると隣に人の気配を突然感じた。

相変わらずどんな仕組みなのやら。


「今日の弁当は何かの?」

「自分のがあるでしょうに……。」

「他人の物は不思議と欲しくなったりするじゃろ? それと同じじゃよ。」

「確かにそういうのはありますけど、どう考えてもそちらのお重の方が豪華でこっちのを欲しくなるとは思えないんですけど。」

「隣の芝は青いと言うであろう? それよりも、早う弁当を出さぬか。」

「はいはい。出しますよっと。」


今日のお弁当はルリエではなくリリン作だ。

俺と違っていくらでも時間があるからか食材のバリエーションも豊富だ。

きっと稽古をしている間に買い物をしたんだろう。

普通のアイテムボックスでも時間経過を遅らせる効果があるから、俺がいなくても買い物に支障はないだろう。

ちょっと寂しい気もするが。


「ほほう、これはまた……。」


どこで聞いたのか、精力が尽きそうな品が多い気がする。

それを察した紅白巫女も意味深な笑みを浮かべてるし。

まあ、味は抜群だし、気にしたら負けだ。

何に負けるのかは知らないし、勝ったとして何かがあるわけじゃないけど。


「では、頂くとしようかの。」


紅白巫女がどこからともなく重箱を取り出し蓋を開けたところで俺と紅白巫女の箸が伸び、俺の弁当のうなぎに向かった。

日本じゃただの弁当にうなぎとかはありえないが、ここではそうではない。

それが今は嬉しいしありがたい。


それぞれが好きなように好きな物を食べていき、あっという間に完食。

俺の弁当もそれなりの量があるし、お重は三段もあって、それを半分に分けているとはいえ当たり前のように食べてて紅白巫女は相変わらずすごいな。

パッと見た感じお腹が出てるようには見えないし、本当に一体どこに入っているんだろうね?


「あまり女子の体を見る物ではないぞ。」

「すみません。でも、良く入るなぁって思いまして……。」

「それはお主もであろうが。」

「いやまあ、自分は男ですし、冒険者になってからは食べる量も増えたんで。でも、あなたはそうは見えないので不思議でして。」

「まあ、昔から良く食べる方ではあるの。」

「やっぱり家族もたくさん食べるんですか?」


大食いは遺伝するみたいだし。

某ギャル系大食い女王さんは家族も大食いだってなんかで見た気がする。


「うむ。特に母が大飯食らいだな。」

「やっぱりそうなんですか。」

「あれは妾でも驚くほどじゃ。」

「あなたでも、ですか……。」

「母も太ってはおらぬぞ。昔は普通だと思っておったが、周りからは良く驚かれていたのを見て異常なんだと知ったわ。」

「大食いあるあるですね。」

「そうなのかの? と、それよりも、ではそろそろ妾は戻るとしよう。また明日もこの時間に。」

「分かりました。」


3日連続ともなればもう慣れてきたよ。

さて、俺もそろそろ道場の方に戻ろうかね。

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