第1161話 というか異論は聞かないよ! 的なお話

午後の稽古が始まった。

午前は防御一辺倒の所から攻勢に出るという流れの攻勢の部分の最初の所をやっただけだったが、午後もその部分を徹底して教えてくれる。

攻勢に出た際の攻撃のタイミングや、周囲を走り回る際の走り方、走るスピードなんかも指摘される。

遅過ぎるのは問題だが、俺の場合は速過ぎるとのお言葉をいただいた。


「遅いのは問題外だが、速過ぎては祭りを見にくる人達が楽しむことが出来ない。人に見せるものだということを忘れるな。」


こういう祭事っていうのは神様に捧げるものっていうのが多くあるような気がするけど、人に見せるって事は違うのだろうか?

元々は竜が暴れ、それを封じた事を忘れないためだから、神様に捧げるという目的ではないのかもしれない。

それに、神様に捧げるにしたってここの神様がどんなものか分からないし、そういう風習がない国なら神様に捧げるという形じゃないとしてもおかしくはないのか……実際がどうなのかは分からないが。


注意された点を修正し、それでスピード感が出るように、でも速過ぎないように注意して……うん。

結構むずい。

1番厄介なのがスピード感が出るようにしつつ速過ぎないように加減するって事。

これまでのレベル上げの成果と祝福の効果でステータスが上がってるから求められている速度でもまだまだ余裕がある。

そんな加減している状態で本機の先頭っぽく見せるのが意外と難しい。

スピード感を出すのに有効なのが動きのキレを良くする事だけど、油断するとつい速過ぎてしまう。


速度の調整に苦戦している間にあっという間に時間は過ぎ去っていき、ようやく巫女役の攻撃魔法と思われる行動に合わせた後退の所までやった所で時間が来てしまった。

残りは明日。

明後日は演者全員集めての通してやってみるって話だが、そこで稽古の成果を見るのだろう。

つまり、そこで試験の結果が決まる。

稽古に当てられる残り時間は明日だけ。

本当に最後まで出来るのだろうか?

不安だ。

不安しかない。

こりゃ明日も朝早くに来た方が良さそうだ。

夜は……無理かもしれないし。


軽くストレッチをしてから帰ろうとしたところにキリハさんがナンパされているのに気付く。

ナンパと言っていいのかは分からないが、三次試験受験者達に声を掛けられているみたい。

ほーん。

随分と余裕なんだなぁ。

こっちは速度調整とスピード感を出すのに苦労しているというのに……。


というか、キリハさんの話し方や雰囲気からして多分それなりに家柄も良さそうなんだけど、そんな気安く話しかけていいのかねぇ。

朝ちょっと話した感じ強権を振るうようには見えなかったとはいえ、行き過ぎたら問題になりそうだし。

まあ、鬼人族なんてヤマト以外ではそうそう見かけないしな。

少なくとも西大陸では見たことがない。

そんな人とお近づきになりたいと思う気持ちも分からないでもないが……試験に落ちたら話す機会も無くなると思うんだけど。

ああして声を掛けてるのって諦めてる連中だったりするのかもな。

受かりそうにないから今の内に親しくなっておこうって魂胆かも。

俺には関係ないけど。

そんなの気にしてる余裕もないしね。


宿に帰るとみんなが出迎えてくれた。

まだそんなに経ってないのにもうこの宿に親近感というか、帰って来たって感覚を覚えるようになっちゃったな。

俺は宿にそんなにいないというのにな。

みんなは俺以上にそう感じてるかも。

こうなってくるとグラキアリスに戻るときに苦労しそうだ。

こんな贅沢な生活しちゃったもんだから帰るときの船や宿に物足りなさを感じそう。

庶民的な感覚を忘れないようにしないとな。

……庶民的な感覚って自分で言ってて、なんかちょっと悲しくなった。


今日一日のお互いの行動なんかを話しながら夕食を堪能し、お風呂に入って後は寝るだけ。

寝るだけったら寝るだけなの。

明日も早いから俺!


「というわけでおやすみ!」


異論は認めないよ。

というか異論は聞かないよ!

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