第1110話 ちょっとだけ、本気でやってみようかね? 的なお話
スズランさんの事は諦めて役所に指定された宿へと向かう。
その宿はどうもかなり高級な宿らしく、スズランさんのミウラ家の別邸のあった上流階級の人たちが住んでそうなエリアの外れのところに宿は存在した。
この場所も、日当たりとかの立地が悪いという感じではなくどちらかといえば高級街の静かな場所って言った方がいいだろう。
そういう立地条件を求めていたのか、宿の周囲には広い庭があり、その庭の周りも家が無く静けさを演出している。
そんな静けさのアクセントに時折小鳥の鳴く声が聞こえてくる。
そんな宿の名前は花鳥園。
……なんかもう分かってたよ。
風月庵とか雪の宿とか系列の宿に何度か泊まったもの。
きっとそういう縁があるんだろうなって、なんとなく分かってたよ。
そんな美しい自然シリーズのお宿ではあるけれど、宿自体は凄いという言葉しか出てこないレベルだった。
まず入ってすぐのロビーが広いのなんのって。
それでいて無駄に豪華な感じではない。
なんていうか、海外の高級なホテルではなく、日本の高級旅館のような感じ。
高級旅館行った事ないけど。
「ようこそ、花鳥園へ。ご宿泊ですか?」
「はい。あ、役所からの案内で来ました。こちらが案内書となっております。」
「拝見させていただいてもよろしいですか?」
「はい。」
「……なるほど。分かりました。ではすぐにお部屋のご用意を致しますのであちらの椅子に座ってお待ち下さい。」
「分かりました。」
木の形をそのまま生かした椅子に高級そうな座布団が並べられている。
おお、スッゲー柔らかい!
それなのに下の椅子の木の硬さを感じない。
凄いな。
「そういえば、スズランさんは泊まる場所はどうするんですか?」
「私は別邸の方で。流石に京で家に帰らないとなると、色々と勘ぐられると思うから。それだけならまだしも変な噂を流されたら堪ったものじゃないですから。」
「あー、なるほど。分かりました。」
ちょっとホッとしている俺がいる。
こういうのはあんまり良くはないとは思うんだけど、いつまでも付き纏われるのはちょっとね……。
「お待たせしました。お部屋へとご案内させていただきます。」
仲居さんに案内されたはとにかく広い。
そして広いだけじゃなくて部屋の中に更に幾つかの部屋がある仕様。
なんというか、スイートルームとかってこんな感じなのかなって、そういう部屋だった。
え、というかちょっと待って?
ここにずっと泊まるの?
そんなに余裕あったかな……?
「あの、それで宿代は……?」
「それならご安心ください。当宿に宿泊している間の費用は全て国が負担する事になっておりますので。」
「あ、そうなんですか。それなら安心です。」
良かったー。
きっとこんな部屋一泊するだけでも数十万とかかかるだろうし、ヒノモトにいる間ずっととか絶対破産してたし、本当に良かった。
「となりのお部屋も取ってありますのでそちらもお使いください。こちらがその部屋とこの部屋の鍵になります。」
「あ、はい。」
更にもう一部屋かよ。
それだけで封竜祭に対する国の本気度合いが窺えるな。
「それで、お食事に関してですが、何か食べられないものとかはございませんか?」
「大丈夫です。特にそういうものは有りません。」
「分かりました。料理長にはそう伝えておきます。」
実を言えば、俺はピーマンとナスが嫌いなんだけど、我慢すればなんとか食べられないこともなくはなくなく……。
それに、きっとここはこの国でも有数の高級宿。
多分料理長さんの腕前で美味しく食べられる物になってるはずだ。
大丈夫、大丈夫なはずだ。
「お風呂に関しては当宿自慢の大浴場がございます。大浴場は午後4時から午後11時までとなっておりますので、それ以外の時間に入浴したいのであれば部屋備え付けの浴室をご利用ください。」
「分かりました。」
「最後に、部屋の中にある従業員呼び出しの魔道具をお使いいただければ、いつでも対応させていただきますので、気軽にご連絡ください。では、ごゆっくりどうぞ。」
至れり尽くせりだな。
ここまで来ると、なんか、あれだな。
あんまり本気じゃなかったけど、無様は晒せないし、真面目に英雄役の試験を頑張らないとなって気になってくるな。
ちょっとだけ、本気でやってみようかね?
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