第1109話 もう、好きにしてくれ…。的なお話
ユキノの先導の元、役所に向かう。
役所はまあ、なんていうか……奉行所? みたいな感じで、この桜吹雪が目に入らぬか! っていう人が居そうな見た目をしてる。
そういう罪人が判決を待つ場所はただの庭って感じで枯山水とかあるけど。
見た目だけそれっぽいのな。
「こっちだ。」
門を通ってすぐに右のところに建物の入り口があった。
時代劇のがそうなっているのかは知らないけど、少なくともここのはこういう形になっているのか。
道を進んで行くと途中でいくつもの部屋があるがその全てをスルーしてどんどんと進んでいく。
するとまるでギルドのような受付が目の前に広がる。
……役所?
多分、こういう形の方が色々とやりやすいんだろう……。
「英雄役候補勧誘員のユキノ様ですね。はい、確かに証明書を確認しました。では合言葉を。朝に。」
「煌めきを。」
「昼に。」
「輝きを。」
「夜に。」
「安らぎを。」
「確認しました。ではこちらが宿の案内書です。封竜祭実行委員会からの使者ですが、いつ頃尋ねればよろしいでしょうか? 説明には少々お時間を取らせていただきますが、何か予定はありますか?」
「いや、いつでも構わない。ああ、ただ今日は勘弁してくれ。長旅で疲れているだろうからな。」
「分かりました。では、明日のお昼過ぎに伺うように手配しておきます。」
「頼む。」
事務的な事は全部ユキノに任せて俺はその後ろでぼけっと突っ立てっている。
特にすることもないし出来る事もない。
それにこういうのは勧誘員だというユキノの仕事のうちだと思う。
今回の封竜祭に関しては一応俺が主導ではなく、ユキノが主導で動いている事だからな。
役所から出て宿に向かいたいところだけど、その前にまずはスズランさんを京にあるという別邸はと送り届ける。
その辺はしっかりやらないとね。
もうすぐ終わるけど、だからこそしっかりと気を引き締めて。
百里を行く者は九十を半ばとすって言葉もあるしね。
オキフネさんから貰った地図には京の入り口はもちろん、役所の位置も書かれている。
なのでわざわざわかる所まで移動してから再度別邸に向かうなんて面倒な事をしなくて済む。
京の入り口から何回目の十字路を右にとかだと入り口まで戻らないといけないから、そういうのじゃないのは非常に助かる。
地図の通りに進んでいくと立派な屋敷が建ち並ぶ場所に入っていく。
スズランさんはあんな感じだけど、それでも三等大名の娘だ。
京にある別邸とはいえ、立派な屋敷だよなそりゃ。
そしてその別邸へとたどり着いたわけだけど、これまた立派な武家屋敷。
当然門の前には門番さんがいるので、まずは門番さんに話して屋敷を管理している人を呼んでもらう。
その際にスズランさんにも顔を出してもらい、怪しい者じゃないですよアピールを欠かさない。
これ大事だからね。
これがないと管理してる人が出てくるまでに一悶着あっただろうから。
「確かにヤスカネ様の字ですね。事情は分かりました。スズランお嬢様を遠路遥々送り届けていただきありがとうございます。長旅でお疲れでしょうしどうぞ屋敷の中へ。ヒノモトにいる間は当家に滞在して下さい。」
「あ、それですけど、自分は英雄役候補としてヒノモトに来たので宿は役所の方が手配してくれていますのでお気になさらなずに。」
「そうですか。では代わりと言ってはなんですが、少々お待ちを。」
屋敷の爺やって感じの男性が一度奥に引っ込み、そしてなんか箱を持って戻ってきた。
「こちらをどうぞ。買い置きで申し訳ないのですが、京でも指折りの菓子屋の品です。当屋敷に滞在出来ないとの事ですので、せめてこれだけでもお受け取り下さい。」
「……報酬なら既に受け取っているのですけど、そう仰るのでしたら。」
菓子折を受け取ったので宿に向かうとするか。
「では、行きましょうか。」
「はい? あの、スズランさん? 貴女のお家はここですよ。」
「そうですね。でも私は言いましたよ? ヤマトに来てから英雄役となるまでを書き綴ると。当然ついて行きますよ。ただ、もう仕事は終わってますけど。でも、出歩いた先で偶然遭遇なんて事も小さな島国の中なら結構あると思うなー。」
「……勝手にして下さい。何かあっても責任は取りませんからね。」
「はい。」
もう、好きにしてくれ……。
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