第962話 この人の物となった。的なお話
……あ、ちょっといい事思いついた。
「すみません、この犬の御守り10個ください。」
「10!? って、ああ、なるほど。まいど!」
?
何故納得したのか……って、あ、そういう事。
でもちょっと違うんだよなぁ。
「ルナ、絵具貸してくれない?」
「いいけど、何に使う、の?」
「ちょっと、嫁と恋人に贈る御守りにしようと思ってね。ほら、この犬の御守りって安全祈願で何事もなく無事に帰って来ますようにっていう物だろ? だからさ、これを大切な人に贈ればその人の安全と無事を願う御守りになるんじゃないかなって思ってね。」
「あ……。」
「絵具は色をつけたほうがより想いが伝わるかなって思ったんだけど……これって自分をイメージした方がいいのかな? それとも相手をイメージした方がいいのかな?」
「え、さあ? どうだろう?」
「うーん、どうしようか?」
「ね、ねぇ? それって私の分は無いの?」
「え、無いよ。だって蒼井は嫁でも恋人でも無いじゃないか。」
「そ、それはそうなんだけど……なんかこう、仲間外れみたいで、貰えないのが辛いんだけど……。」
「……ま、まあ、確かに恋人じゃないが、大事なパーティメンバーである事に変わりはないか。」
悲しそうな顔をしてるのを見ると、なんかこう、ほっとけない気になる。
一緒に行動するようになって、距離が近くなったから昔のような感じに近づいたという事なんだろうか?
「すみません、追加で2つ犬の御守りが欲しいんですけどありますか?」
「ああ、あるよ。あるけど、お代は要らない。さっきのも返すよ。でもその代わり、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「お願い、ですか?」
「ああ。つってもそんな難しい事じゃない。さっき君が言ってた事、あれを商売に使わせて欲しいんだ。」
「さっきのって……?」
「ほら、大切な人に贈るってやつだよ。あれをこの御守りのジンクスにさせて欲しいんだ。内容は恋人や結婚相手にこれを贈るという事は相手の安全を願い、そして無事に自分の元に帰って来てくれるっていうものさ。」
「えーと……」
正直に言えば凄く面白いと思う。
自分のちょっとした思い付きがこの街でのジンクスとなりいろんな人に広まる。
これは普段の生活じゃあり得ない事だから興味はあるが、だからといってそう簡単に頷いていいものなのだろうか?
何より、この人が何でもかんでもこじつけて悪どい商売をしないとも限らない。
自分がきっかけで色々な人が困る事になるのは嫌だ。
「更には自分の元に帰ってくるという事はつまり、他の異性の元にはいかず自分を大事にしてくださいっていう浮気防止の意味も出てくると思うんだよ。な、いいだろ?」
「確かに面白いとは思いますが、それで味を占めて、悪どい商売をしないと言えますか?」
「言える! なんだったらここで契約書を交わしてもいい!」
即答だった。
それに契約書を書いてもいいと言っている。
これは信用していいのかも……いや、まだ分からない。
簡単に反故にできるのかもしれないし。
「……契約書の内容次第によってはいいですよ。」
「本当か!? ちょっと待ってろ、今準備する!」
露天商はアイテムボックスから紙とペン、そして判子を取り出すとすぐに契約書の作成に取り掛かった。
そうして出来た契約書の内容は犬の御守りのみをジンクスの対象として広めるだけでそれによって必要以上に利益を得ようとしないというものと、この契約を反故にした場合今の職を辞めて尚且つ俺に全財産を譲渡するというかなり攻めた内容だった。
それを2枚作成して割印を行い、後は俺が名前を記入すればそれで済むようになっている。
随分と手慣れているな。
それに割印の判子。
ただの露天商がそもそもそんな物を持っているものだろうか?
ただの露天商のおじさんだと思っていたが、ひょっとして結構裕福なのでは?
そう思ったら服も高そうに思えて来た。
「分かりました。貴方を信用したいと思います。ただ、自分を出汁に悪どく稼いでいると感じたら即座に官憲なり知り合いの貴族なりにこの事を報告させてもらいます。」
「構いません。」
というわけでサインをして俺のちょっとしたアイデアはこの人の物となった。
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