第961話 それはちょっと、面白いな。的なお話

「というわけで、そういう混ざり合った文化を意識しつつ、適当にぶらり旅と行きますか。」

「ぶらり旅って、別に旅じゃなくてただの観光だよね?」

「あ、それはただの言葉の綾というか、まあ、故郷の言い回し。」


よくテレビ番組でぶらり◯◯ってやってたからなぁ〜。

あてのない観光とかはついぶらり◯◯って言いたくなっちゃう。


マイアーノ食堂を後にし、適当に街を歩いていく。


「そういえば今日は普通に街に滞在するのだな。」

「あ、やっぱユキノ的には急いだほうが良かった?」

「いや、そういうわけではないが、これまでと違うので少し気になったのだ。」

「まあ、大した理由はないよ。ただここに米があったからさ。」

「何山みたいに言ってるのよ。」

「何故ここで山?」

「ああ、それも故郷の言い回し。後はまあ、領都ともなるとそれなりに街は広いだろうし、時間的にお昼はこの街で食べる事になるけど、馬車を置いたままその辺の店で食うのはどうかと思うし、かといって昼食の為だけに馬場に預けるのもどうかと思ってな。そもそも馬場がどこか分からないからまずそれを探すことから始めないといけないしさ。」

「なるほど。米に目が眩んだだけではなかったんだな。」

「…………もちろんさ。」

「……今の間はなんだ?」

「ま、まあ、そんな事はどうでもいいじゃないか。それよりもほら、何か面白い物売ってるかもしれないぞ。」


明らかな話題逸らしだと分かるだろうが、ウチのパーティメンバーはみんな良い子だ。

きっと見逃してくれるはずだ。


「はぁ〜……まあよい。あの店だな。」


うん。

全て理解してなお乗ってくれた。

ありがとうユキノさん。


適当に指差しただけだったが、覗いてみた露店で売っているのはなんというか、木彫りの人形……で、いいのかな?

日本ならストラップになってそうな小ささだが、そういう取り付ける物……えーと、なんていうんだっけ?

うーん、うーん……あ、根付?

なんかそんな感じの名前だった気がする。

そんな感じなんだけど、この店の品はそういうストラップに出来るようにはなっていない。

どういう事なんだろう?


「すみません。この店の品はどういう物なんですか?」

「ん? ああ、これはね、御守りだよ。」

「御守り?」

「そうそう。このネズミのは子宝に恵まれるようにっていうので、こっちの海鳥のは大漁祈願、でこっちの犬のが何事もなく無事に家に帰れますようにっていう安全祈願だな。」

「大漁に家に帰れる……ひょっとしてアクリアの……?」

「そうだよ。元々はアクリアの船乗りが願掛けとしてこの犬の人形を持ち歩いたのがきっかけでね、そこからこっちの方にも入ってきて種類が増えたりしたって感じ。」

「犬の人形にしてたのは帰巣本能が由来ですか?」

「帰巣……? 難しい言葉はよく分かんねぇけど、犬ってのは逸れても家に戻ってくるだろ? だからいつしか船乗り達にとっては犬ってのは無事に港に帰ってくるための守神って思われるようになったんだとさ。まあ、俺も昔じいさんにそう聞かされたんだけどな。」


それが帰巣本能だよ……とは言えない。

まあ、どういうものかは分かってるみたいだし言う必要はないよな。


「じゃあ他のも?」

「その通り……って言いたいんだけどな。こっちには船乗りなんて居ないだろ? だからこっちで商売するにあたって色々増やしたんだ。ま、それでもいくつかはアクリアの方でありふれた物なんだけどな。」


そういえば、地球にいた時も船乗りは願掛けとかジンクスとかそういうのを大事にするってなんかで見た気がする。

それに船首に女神像を付けたりするのも守ってくれますようにっていう願いからだっていう話を聞いた事がある。

つまりアクリアの文化の1つにそういう願掛けやジンクスを大事にするっていうのがあって、それがこっちに入って来てるのか……。

それはちょっと、面白いな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る