第892話 多分それがいい。的なお話

アイリスさんが落ち着くまで待ってから質問をする。


「アデラードさんから聞いたって言っていたけど、どういう風に聞いたの?」

「ぐすっ……えと、知らせてくれた人が言うには、突然目の前から消えたって……だから探しに行くって言っていたっす。」

「そう。」


話はまあ、はたから見たらそうなるか、という簡単な内容だった。

なのでアイリスさんにも説明する。

説明するが全部話すのは流石にまずいと思うので隠すべきところは隠して捏造して話す。

内容としては記録結晶という新しいアイテムを作り、その最初の1個目を使って迷宮の存在意義である、人々の鍛錬の場という目的を果たすべく迷宮を司る神アルティアさんが試練を設けた……辺りがいいかな。

いや、まあ、俺を狙ってってのは話してもいいか。

フランっていうアリシアさんの眷属から聞いて興味を持ち、被験者として俺が選ばれたと。

もちろん、死なないようになっていた事も伝えないと。

生き死にが掛かっているかどうか、聞く側はそれも重要だからねぇ。

俺だったら知りたいだろうし。


「はぇ〜。そんなことがあったんっすか。大変だったんすね。」

「まあ、ね。ただ、アリシアさんには無断でやってた所為で怒られてたよ。で、そのお詫びにってんでこれを貰ったんだ。」

「綺麗な剣っすね……全部真紅で……あれ、でもこれ鞘は?」

「それが無いんだよねぇ。一緒に転移させられたナタリアさんの方は槍だからまだ良いけど、剣を抜き身のまま持ち歩く人なんてまず居ないよね。」

「っすね。普通に捕まっちゃうっすよ。」

「そういうわけなんで自作しようと思うんだけど、手伝ってくれない?」

「手伝う……っすか?」

「うん。流石に鞘もこれに合わせて真紅にしたら目立つから、鞘は普通にして、表面は革張りにしようかなって。折角恋人が革細工職人なんだしさ。」

「また共同作業っすね!」

「その通り……あ、ちゃんと代金は払うよ。」

「気にしなくても良いんすけどね……まあ、そういうところも好きっすけど。」


そのまま鞘のデザインについて話をしたいところなのだが……俺まだお昼食べてない。

というか朝も食べてない。

というわけで鞘作りはまた今度。


「仕事の邪魔しちゃ悪いし、まだ昼も食べてないから、俺はそろそろ行くね。」

「あ、もう行っちゃうんっすか……。」

「みんなも待ってるだろうしね。あ、そういえばリナさんがどこに居るか知らない? リナさんにも帰ってきた事を伝えたいんだけどギルドには居なかったんだよね。」

「リナならウチに居るっすよ。」

「え? ウチって、アイリスさんの家に?」

「はいっす。アデラード様が助けに行くから大丈夫だとは思ってたっす……思ってても、やっぱり、怖くて、1人で居ると変なこと考えそうで、だから、どちらともなく自然と一緒に居ようって話になってそのままウチに泊まることになったんすよ。私は前日少し徹夜してた事もあって夜はちゃんと寝れたんっすけど、リナは寝れなかったみたいで……朝方ようやく眠れたようで、多分今も寝てると思うっすよ。」

「そっか。心配かけた俺が言うことじゃないけど、起こすのは忍びないし、今は寝かせてあげようか。」

「本当に、レントさんが言うことじゃないっすね。」

「そんなこと分かってるよ。でもまあ、そういうわけならまた今度会った時にでも伝えに行く事にするよ。」

「なんだったら、起きた後連れて行くっすよ。」

「いや、でもそういうのは普通自分から行くもんじゃないか? それなのに来てもらうなんて……。」

「リナも早く会いたいと思うっすから。」

「……分かった。じゃあ、お願いできるかな?」

「了解っす!」

「きっと今日もアデラードさんの家に泊まると思うから来るならそっちでお願いね。」

「分かったっす。ついでに泊まる用意しておくっす。多分泊まっていきなよとか言うと思うっすから。」

「あはは、言いそうだ。」


というか、既にイリスさんに向けて言ってるし。


「あ、後、今夜は人様の家だからそういう事はなしで。」

「〜〜〜! そ、そんなの分かってるっすよ!」

「あはは、じゃ、そういうわけで!」


軽くからかってすぐに店を出る。

からかうというか、本気だけどね。

人様の家でそんな情事に耽るなんてどうかと思うし、それに帰ってきたばっかだというのに疲れも完全に抜ける前に……なんてのは流石にね。

どうせすぐに襲われることになるんだろうし、その前に少しくらいはのんびりしてもバチは当たらないと思う。

アデラードさんに襲われる可能性もあるけど、いくらアデラードさんでも昨日の今日なわけだし1日くらいは自重してくれるだろう。

いや、きっと自重してくれるはずだ。

あそこにはイリスさん達も居るんだし。

でも念の為みんなにも言っておこう。

うん。

多分それがいい。

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