日本のとある日

ここは第18型地球系列世界郡16835番の日本、そのとある街にある家、風見家。

主人公である風見蓮斗の生家だ。

その風見家の庭で暴れている……もとい、鍛錬に勤しむ者がいる。

蓮斗の妹である唯だ。


「ふっ、はっ、やっ、せいやー!」


彼女、唯は通っている高校の空手部に所属していない。

もちろん、それ以外の格闘系である女子柔道部、女子ボクシング部、女子相撲部なんかに入っていないし、剣道も弓道もアーチェリーもやっていない。

中国拳法同好会、テコンドー同好会、プロレス同好会も同様に所属していない。

では近くの道場に通っているのかといえばそういうわけでもない。

つまりは痛い人だ。


誰かに師事した事があるわけでもなく、ただ只管に漫画やアニメなんかで見たことある技や流派の真似をして日々鍛錬を積んでいるのだ。

はっきり言って痛すぎる。

しかし当人は非常に真面目で、かれこれ2年と半年ほどほぼ毎日行なっている。

最初の頃はご近所さんから、お兄さんが亡くなって頭をやってしまったのかと、同情するような目で見られていたが、しばらく経つと今日も頑張っているね〜と差し入れをくれたりするようになった。

もともと身体能力が高く、また兄に近づく虫達を時に言葉で、そして時に武力を持って追い払っていたという経緯もあり、ある程度様になっていた動きもここ2年半の鍛錬により更に洗練されている。

ちなみに、各武道系の部活の助っ人とかやっていたりもする。

身体能力のお陰でルールと簡単な技を教わるだけで勝てたりするのだ。

正規部員は陰で泣いている。


そんな唯を家の中から眺めているのは女神アリシア。

定期的に蓮斗の様子を伝えにきており、今日はその日。

お邪魔するのだからと手土産もバッチリで、草津温泉と地獄谷温泉と熱海温泉と別府温泉と登別温泉で買った物を持参している。

温泉巡りしてしまうほどに神の仕事は疲れるのだろうか……?


「いつもすみません。今回は温泉地ですか?」

「はい。初心に帰ってみました。」

「そうですか。前回のは凄かったですからね……その、どこかの世界のよくわからない生き物がウネウネと動いてましたから……あの時は唯が居なければどうなっていた事か……。」

「その節は大変お騒がせしました。」

「いえいえ、お巡りさんにトラウマを植え付けるだけで済みましたから……。」


一体何があったのか……。

というよりもお巡りさんにトラウマを植え付けるような物相手に唯は何をどうしたというのだろうか?

日本の女子高生は恐ろしい。


「てりゃあーー!!」


窓の外から掛け声が聞こえ、アリシアと蓮斗と唯の母、梨花が窓越しに唯を見る。

そこにはお手製コットンバッグに向かって蹴りを放つ唯の姿がある。

お手製コットンバッグというのは唯がサンドバッグを模してワタを詰めて作った訓練道具だ。

唯曰く、砂なんか入れたら凄く痛そうだし、脚に傷とかついたらお兄ちゃんに嫌われちゃう! との事。

しかし、既にこれまでの戦闘遍歴の関係で対戦相手の足を折っても問題ないくらいには凶器になっている。

痛みとか今更である。

そんな唯が放った蹴りは胴◯し十字蹴り。

とある漫画にて空手の達人が放つトンデモ技で身体を回しながらジャンプし、左足はかかと落としのようにして地面と水平に蹴り、右足で十字になるように蹴る唯。

短パンなのでパンツが見える心配は無い。

下着姿を見せるならお兄ちゃんだけと心に深く誓っているからだ。


「うわ〜、あの子またとんでもない技覚えちゃったわね……テレビ局に電話したらマスコミが殺到しそうね。」

「私まだ加護与えてないんですけど……人間ってその気になればなんでも出来るんですね。」


これには神様もびっくり。

少なくとも唯はまぎれもない一般人で、幼少の頃より鍛錬を積んできたわけではないのだ。

子供の頃から空手漬けで……という経歴の持ち主ならばまだ分かるが(それでもマスコミは騒ぐだろうが)たったの2年半でここまでのことが出来るようになるのだから驚くのも仕方ないだろう。

ちなみにだが、唯は空手だけではなく、中国拳法の達人やムエタイの達人、柔術の達人が放つ技のいくつかを再現できるようになっていたりする。

天然物のチートキャラである。


「ふぅ〜。」


うっすらと浮かぶ汗を拭きながら家の中に戻ってくる唯。

どうやら鍛錬は終了のようだ。


「あ、アリシアさん、来てたんですね。」

「はい。あ、これいつものです。」

「ありがとうございます!!」


いつものと言って渡された黒い袋を大事に抱きしめる唯。

その姿はさながら大好きなおばあちゃんからプレゼントをもらって喜ぶ幼子のよう。

しかしそう見えるだけで頭の中は既に袋の中身についてで一杯だ。

この袋の中には以前お願いして以降、定期的に貰ってきてくれる蓮斗が使用した古着などが入っており、今も唯の頭の中では何が入っているのか、どう使用しようかと考えるのに高速回転している。

お兄ちゃんの古着だけでご飯3杯はイケると豪語しており、完全に手遅れとなっているブラコンさんだ。


「それと、例の件についてですが、あと少しといったところですね。」

「! 本当ですか!?」

「はい。ですのでもうしばらくお待ちください。」

「分かりました!」


例の件とは一体なんなのか?

それは分からないが、翌日以降の鍛錬時間が伸びたのには何か関係があるのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る