番外編 平成最後のお話
「平成が終わります。」
「はい?」
「平成が終わります。」
「いや聞き取れなかったわけではなく……ひょっとして天皇亡くなったんですか?」
「いえ、まだ生きてますよ。」
「意味が分からない……。」
本当にね。
なんで平成が終わるのかというのも分からないし、何より、何故アリシアさんがそんな事をわざわざ報告しに来ているのかだ。
確かに平成生まれの身としては、平成が終わるというのはちょっと思うところはある。
感慨深いと感じるほどではないにせよ、そうか……終わるのか……といった気分にはなる。
だが、それを知らせて何になる。
俺は既に死んだ身。
もう日本に帰ることは出来ないのだからそれを知ったところでどうすることもできないのに。
「天皇が退位し、次代の天皇が即位します。なので平成が終わるというわけです。今いろんな所で平成最後の〜ってやってるんですよ。」
「なんか、日本らしいですね。」
「そうですね。」
何かにつけて話題にして騒ぐというのは日本の特色と言える。
ハロウィン、クリスマス、バレンタイン。
それらは決してお祭り騒ぎするようなものではない。
確か宗教的な意味合いが強いものじゃなかったっけ?
ハロウィンは日本で言えばお盆的な側面があって、クリスマスは聖ニコラスが貧しい家に〜ってのを聞いたことあるし……あれ?
キリストの生誕祭だっけ?
まあ、どっちでもいいか。
そしてバレンタインも聖バレンティヌスがどうのって日の筈。
それをお祭り騒ぎにしているのだから本当に、らしいとしか言えない。
「それで、新しい元号はなんて言うんですか?」
「ふぐっ!」
蒼井が後ろから現れた。
それはいい。
だがな、肩を掴んで体重かけるな。
変な声出たじゃねーか。
「令和だそうですよ。」
「れーわ?」
「令和です。万葉集から来ているそうです。私が管理している世界ではないので意味はよくわかりませんが。」
「そうですか。それはそれとして、蒼井! いい加減どけ! 重いわ!」
「重くないわよ!」
「いいから力抜け! というか離れろ!」
女の子に重いは禁句。
それは分かってる。
だが、いつまでも肩に力を掛けられる身にもなれというものだ。
「あ、そうそう。それと紙幣も変わるそうです。そちらは2024年からだそうですが。」
「え、そっちも変わるんですか!?」
「渋沢栄一と津田梅子、そして北里柴三郎だそうです。」
「「…………だれ?」」
「さぁ?」
「「……………………。」」
知らないのなら言わないでほしい。
混乱するだけなので。
「後はオリンピックが2020年に東京で、2025年に万博が大阪でそれぞれ行われる予定で、日本の大きな話はこの辺でしょうか。」
「オリンピックはまあ、知ってましたけど、万博ってそれ本当ですか? 前に日本でやったばかりでは? まだ子供の頃だったけど、連れて行かれたことありますし。」
「あ、私も行った。家にその時のグッズがまだあるよ。」
「さあ? そう決まったそうですから。」
「まー、普通は口出しとか出来ませんのは分かりますが……なら何故話題に?」
「いえ、蓮斗さん達が日本の事を知りたいと思いまして。」
「あ、そういう事。ありがとうございます。」
「いえ、お気になさらず。最近はあまり来れてませんでしたが、私も蓮斗さんに会いたかったので。」
「そんな事言われると……照れますね。」
突然そんなこと言うんだもんなぁ。
美人にそんな事言われたらそりゃ照れるよ。
その後、日本に関して気になっていた事なんかを俺と蒼井、そして途中で合流したアカネと一緒になって質問したり雑談したりした。
俺はVR技術に関して聞いてみたりもした。
VRゲームが題材の人気作の時代設定にもうじき追いつくからちょっと聞いてみたんだよね。
まあ結果は……そりゃそうだよねって感じ。
精神に干渉できるような仕組みはそう簡単に出来ないし、出来たとしても倫理的な問題も出てくるからね。
そもそもあれ、デスゲームだし。
「ふごっ!」
「きゃん!」
うぐぐ……頭頂部に感じるちょっと懐かしいこの痛みは、レイカーさんか。
「あら、もう時間かしら?」
「あいたたた。もう時間かしら? じゃないですよ。音楽神がもう来てるんですよ!」
「そうですか。名残惜しいですが、時間のようですし私はこれで帰りますね。」
「あ、はい。またいつでも来てください。」
「はい。必ず。ではまた。」
そうして、突如やって来たアリシアさんはレイカーさんに連れられて帰っていった。
あ!
家の事聞くの忘れてた!
……ま、いいか。
また今度で。
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