番外編 ◯◯は見た

これはレント達が不吉を届ける黒猫のアニメを見た後の話である。


〜レントは見た①〜


あ〜疲れた〜。

まあ、納得はしたよ。

というか心のどこかでそうなる気はしてはいたよ。

前もそうだったし。

でもなぁ……はぁ。

やるしかないし頑張ろう。


「ん? あれは……?」


グラハム武具店はギルドのすぐ近くという事もあって休憩がてらちょっとばかし訓練場の様子を伺ってみたのだが……何あれ?


「せいっ! って、ああ! また絡まった!?」


訓練場にいたのはユキノ。

そのユキノは指をワシワシと動かしながら掛け声と共に腕を振っている。

本当に何してんの?

それに絡まったって何が絡まったの?

何も持ってないよね?

鞭とか持ってないよね?


「いきなり全部の指は早かったか……。先ずは一本だけで練習すべきか。」


うーん?

全部の声が聞き取れたわけじゃないが、全部とか一本とか練習とか言ってるな。

指についている何かを解くような動作をしているが、何を解いているのかはよく見えん。

つまり、見えないほど細いもの……糸か?

糸、全部、あの動作……ああ。

あいつの真似をしているのか。

ユキノは忍者に憧れているしな。

操糸術とかそういうのを使いたいという気持ちも分からなくはない。

しかしまさかあのジョネス……じゃなかったジ◯ノスの真似をしていたとは……日本ならめっちゃ恥ずかしい瞬間だよな。

子供の頃にか◯はめ波の練習をするくらいなら微笑ましいが、ある程度の年齢になってやってたら恥ずかしいもの。

更に操糸術というマイナーというか癖のあるというか……それをアニメ見たから練習というのだから……うん。

見なかったことにしよう。


さーて。

気分転換も済んだし、仕事に戻るか。


〜レントは見た②〜


バイトを終えて宿に向かっていると服屋を見かけた。

その服屋は特にこれといって何があるわけではない。

素材が魔物の物オンリーというわけでもなければ、独特なセンスによって作られた物が取り扱われているわけでもなく、名前が変というわけでもない、至って普通の服屋さん。

そんなどこにでもあるようなごくごく普通の服屋さんにそいつはいた。


「うーん。このコート、長さは丁度いいけどデザインがちょっとなぁ……色も少し違うし。」


服屋にいたのはアカネ。

そしてアカネが手に持つのは黒いコート。

うん。

思いっきり影響受けてるね〜。

いやまあ、気持ちは分かるよ。

俺も日本にいた時には黒いコートが欲しいなとか、モデルガンでもいいから携帯したいとか考えたりもした。

あくまでも考えただけだ。

実行には移してない。

ちょっと痛いなぁ……と理性がストップをかけてた。


「あ、これとかデザインが似てる! でも艶がちょっと足りないかな。」


ただ残念なのはアカネの髪の色が赤だということ。

赤髪に黒のコートって合うかな?

いや、合うな。

もしも黒いコートを買ったならばアカネに大太刀を持たせよう。

きっと似合うはずだ。


〜レントは見た③〜


「不吉を届けに来たぜ。……なんか違うなぁ。やっぱ男口調なのが問題なのかも。……不吉を届けに来たわ。……いや、これは間違いなく違う。」


宿の庭にアホがいた。

というか蒼井だ。

魔法銃片手に香ばしいポーズを取り、主人公のセリフを吐いている。

セリフを変える度にポーズを変えている。

香ばしい。

関わり合いになりたくないのでさっさと部屋に戻ろう。

疲れてるし。


〜看板娘は見た〜


かれこれ何ヶ月も宿泊しているお得意様であるレントさん達。

まだ10代なのに既にBランクという凄腕冒険者なんだけど、最近どこか様子がおかしい。

庭で変なポーズを取っていたり、やたらと黒いコートを着てたり、よく分からないけど変な動きをしながら腕を振っていたりする。

一体何があったのだろうか?

そしてリーダーであり、友達のルリエちゃんの旦那さんでもあるレントさんも少し様子が変だ。

なんかレイダさんとコソコソと話し合ってたりしてる。

一体なんだろう?

あ、またやってる。


「やっぱりリリンにはこっちのト◯インの衣装の方がいいって! 小柄だからこそ、いかにもコスプレしてますって感じが出るんだよ。」

「いえ、ご主人様こそト◯イン衣装が似合います。なのでリリン様にはサ◯・ミ◯ツキの衣装を合わせましょう。関係性から考えてもそれがベストです。」

「セフィアはどうするんだよ?」

「セフィア様にはセ◯ィリアの衣装で。名前も似てますし。」


よく分からないけど、白熱していることだけは分かる。

レントさんから教えてもらった言葉に触らぬ神に祟りなしっていうのがある。

意味は神様の機嫌を損ねるようなことして天罰を受ける必要はないように、余計な手出しをして面倒なことに巻き込まれる必要はないって意味だって言っていた。

今がまさにその状況。

お客様のプライベートだし、見なかったことにしよう。


〜神様は見ていた(第三者視点)〜


神界のとある一室。

そこには部屋の主である、アリシアが執務机に向かっていた。

しかし、彼女が見ているのは仕事内容に関することではなく、彼女が大切に想っている1人の人間の様子を映した空中投影ディスプレイである。

最近の蓮斗さんはこんな生活をしているのですね。と、呟きながら話題に上がっているアニメ作品について調べ始める。

想い人の好きなことが気になるのは神であろうと変わらないようだ。


〜神様は見てしまった……(第三者視点)〜


「アリシア様〜。下級神からの報告が……」

「あ……。」


下級神からの報告書を持って部屋に入ったレイカーは見てしまった。

わざわざ肉体年齢を下げてまで生体兵器少女のコスプレをした、自分の上司の姿を。

アリシアはいつか蓮斗さんに見せたいな。とか思っていてポーズとかも取ってたのだから恥ずかしさ更にドン! っといった感じで、あっという間に顔が真っ赤に染まる。

あ、ヤバ……とレイカーが思ったが時既に遅し。

レイカーの身に理不尽が襲いかかったのは言うまでもないだろう。

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