番外編 セラさんの今

「セラ、後でギルドマスター室に来て欲しいです。」

「分かりました。」


ギルマスに呼ばれたのだけれども、一体何かしら?

怒られるようなことは何もしていないですし……。


「先輩何かやらかしたんですか?」

「ララじゃあるまいしそんな事実はありません。」

「先輩ひどいですよ〜。」

「今までのことを振り返りなさい。」

「うぅ……反論出来ない……。」


この子、ララは半年ほど前に勤め始めた新人なんですけど……これまでに決済済みの書類の束を未処理の書類に紛れ込ませたり、機密情報を漏らしかけたり、依頼書を間違えたり、冒険者のランクを間違えて高ランクの依頼を勧めたり……よくクビになってないわね。

まあ、見た目小柄で可愛らしいですから、冒険者人気だけは高いですからね。


業務を終え、ギルドマスター室に入る。


「よく来たです。まあ、まずは座るです。」

「分かりました。」


ギルマスに促されるままにソファーに座ると対面にギルマスも座る。


「今日来て貰ったのは3日後の給料日についてです。」

「なんでしょう? 減給されるような事はしていないはずですが……。」

「いえ、そうではないです。今度の給料日を持ってセラの借金の全てが完済されるのです。」

「本当ですか!?」

「はいです。セラはいつも頑張っていたからこれだけ早く返せたです。」

「ありがとうございます!」

「いえ、礼には及ばないのです。全部セラが頑張ったからなのです。」

「はい。」

「それで、セラには今、2つの選択肢があるです。このままこのギルドで働くか、それともまた冒険者に戻るか。どうするですか? とはいえ、急な話ですから、すぐに答えを出す必要はないのです。じっくり考えて決断するです。そうして出した答えなら、私は喜んで受け入れるですよ?」

「ありがとうございます……ちゃんと、考えさせてもらいますね。」

「はいです。」


ギルドマスター室を後にし、寮の自室へと帰る。

そうか……借金を完済したんだ……。

ん〜、よし!

今日は飲もう!

おめでたい日だ。

リィナを誘って飲もう!

トリアとキャロルを誘うのもありだ。

いや、誘おう!



「借金完済を祝して、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


リィナ、トリア、キャロルの3人と一緒に部屋飲み。

折角の記念だからと少しお高いお酒を買ったけど、まあ、偶にはね。


「それにしても、冒険者辞めた理由が借金とは知らなかったよ?」

「まあ、実家の関係だしね。あんまり言える事じゃなかったのよ。姉が病気で薬が必要でね。その薬もかなり高価な代物。時間もあんまり無かったし私も色々売って工面して、それでも足りなくてギルドにお金を借りたってわけ。」

「そうだったの。でも借金返したんならまた冒険者に戻れるよね?」

「えと、それなんだけど、まだ迷ってるの。ギルマスにも言われたんだけど、このままギルドで働くか冒険者に戻るか、どちらを選んでも喜んで受け入れるって。今の仕事も楽しいし、冒険者の仕事も色んなところに行ったりして楽しいから、決められなくて……。」

「そうか……だが、待ってくれるのだろう? ならば今は、自由になったことを喜んでパーっと騒いどけ。それが1番だ。」

「そうね。悩むのは後々。今は楽しみましょ。」

「それがいいわ。」


リィナに諭され、今を楽しむことにする。

お酒を飲んだ頭で考えてもいい答えは出ないだろうし、そんな深刻そうにしてたら折角の高いお酒が勿体無いし。


そうして適当に買って持ち寄ったものを食べながらおしゃべりをしていく。

女4人が集まれば自然と話の流れはそっち……いわゆる恋バナとかいうのに話が流れていく。

恋バナでいいのよね?

なんかそんな事誰かが言ってるのを聞いたことあるのだけれど……。


「それで、2人は最近どうなんですか?」

「どうって、どうもしないわよ?」

「そうじゃないわよ。恋愛よ、恋愛。私はアベルがいるしキャロルもダインからプロポーズされたそうだし、残りは2人だけじゃない。このままいくと行き遅れちゃうわよ?」

「ま、まだ行き遅れじゃないし! 出会いがないだけだ!」

「いや、それがやばいんでしょう……。」

「私は誘いを受けることはあるけれど……どうも微妙なのよね。」

「というと?」

「顔は多少いいけど強くもない奴が「私があなたを守ります!」とか言うんだけど、いやいや私の方が強いからって感じのとか、不細工な、多分商家の次男あたりかな、そいつが「お前を俺の妾にしてやる!」とか言うのもあったわね。何様だよって感じで、丁重に貶してお帰り願ったわ。」

「うわぁ……。」

「丁重なのに貶してるのがまたなんとも……そんなに酷かったんですか?」

「ええ。聞いてもないのにペラペラ喋ってたわ。なんか、今は支店を任されてるけどゆくゆくは独立し、王国一番の大店になるとかなんとか……ゆくゆくはって完全な願望じゃない。おまけに正妻ではなく妾よ。本当に何様のつもりなのよ。一応私は貴族の出だからそんな馬鹿相手に嫁げるわけないのに……そんなことも調べられないんじゃ到底無理な話。それどころか店、潰すんじゃない?」

「ありそうね。他には?」

「そうねぇ、後は新人辺りが、「ランクを上げて迎えに行きます!」みたいなことは言ってきたかな。」

「顔はどうなの?」

「まあ、ちょっとかわいいかな。」

「そうなの!? でも微妙なの?」

「だってチャージラビット相手に怪我するような子よ? 何年掛かるのよそれ。」

「チャージラビット……そりゃ微妙だ。」

「その点レントさんは凄かったわ。登録してすぐトライデントボアを討伐するし、それでいて調子には乗らず堅実に行き、昇格試験をしようものなら試験官役の冒険者を倒して、盗賊も返り討ち。」

「そういえばオークキング亜種を倒してたっけ。」

「そうそう! 後ろには私達が居たっていう安心感もあったとは思うけど、あの時の思い切りの良さはいいよね。格上相手に長引かせてはジリ貧になるだけ。だから一撃に全力を注ぎ込んで、仲間もレントさんを信頼して任せて……あれぞ冒険者って感じだったよね!」

「でもその後がおざなりだったけどね。索敵も出来てなかったし。」

「まあ、それは仕方ないだろう。登録して1年経っていないんだから。今なら問題は無いだろうさ。」

「それに、エルカの街でのモンスターパレードで大活躍したって話だし十分凄いわよ。」

「2人とも、やけにレントさんの肩持つね?」

「あ、ひょっとして……?」

「な、何よ?」

「な、なんだ?」

「「別に〜。」」

「なんだその言い方は?」

「あ、言っていいの?」

「うるさい! お前なんかこうしてやる!」

「きゃあ、怒った〜。」

「あははは!」


リィナがトリアに飛びかかり口を塞ごうとする。

そしてそれを見てキャロルが楽しそうに笑う。

こういうのも楽しいわね。


「ふふっ……。」



〜3日後〜


「それで、決めたですか?」

「はい。とりあえず、しばらくは冒険者と受付、その両方をやりたいと思ってます。」

「両方ですか。」

「はい。ギルドマスターのように現役の冒険者でありながらギルドで働いている人が居ないわけではないので、その両方をやりたいと思いました。」

「セラの考えは分かったです。ではセラは臨時職員とし、出勤日を減らしたいと思うです。そして、空いた時間を使って冒険者として頑張って下さいです。」

「はい。ありがとうございます!」

「それと、セラにはブランクがあるですから、しばらくは受注できる依頼は2ランクダウンでCランクまでと制限しておくです。」

「分かりました。」


冒険者とギルド職員。

どっちも楽しいわけで、結局どちらにするか決められなかった。

だから、一層の事と両方を選んだ。

この選択が正しいのか分からない。

でも、きっと楽しいはずだ。


「さて、まずは受付の仕事を頑張りますかね。」

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