バレンタイン番外編2019
前世において俺はバレンタインデーにチョコを好きだと言って渡された事はない。
妹からは毎回大好きだの愛してるだの言われてたけど、あれは妹だからノーカンだろう。
寧ろカウントする方がどうかしてる。
小学校の頃は蒼井もくれたりしたが、幼馴染故の物だろうからやはりこれもノーカンだ。
この2つは家族枠みたいなもんだ。
中学になってからは母親や妹を経由してついでといってくれたりしたが、直接会ってくれた訳でもないし、なにより、たくさん作った内の数個といった感じでとてもじゃないけど本命じゃない。
その辺のことを嫁達に説明する。
「そうなの?」
「ああ。実際、蒼井は妹にもあげていたし俺の両親にもあげていたから。後は、学校とかで友達にでもあげてたんじゃないか?」
「うん。あげたあげた。」
「好きな人じゃなくて友達に?」
「向こうにはいつの間にか友チョコっていう文化が生まれてね。友達にあげるのも珍しくないのよ。」
なぜバレンタインデーの話かというと、この世界にもバレンタインデーが存在しているからだ。
アリシアさん曰く、昔にバレンタインの風習を広めてお菓子を沢山貰おうとした転移者がいたが、すぐに女性達は本命の相手には特別な物を渡すようになりその転移者は義理ばかり貰うようになったとかなんとか。
そんなちょっと残念な経緯があるが、現在はこうして普通にバレンタインの風習が根付いている。
チョコに関しては当時はカカオを見つけられなかったが後の勇者がカカオを見つけ、想い人に渡したのがきっかけで通常のバレンタインになったとも言っていた。
「でも急にどうしたんだ? 昔の話が聞きたいだなんて。」
「んー? ただ単に昔のレントはどうだったのかなー? って、ちょっと思っただけだよ。」
「そうか。」
「それじゃ、僕達はチョコを作ってくるから、期待しててね。」
「おう、もちろんさ。」
そしてチョコを作るため、セフィア達はアデラードさんの待つエリュシオン邸へと向かった。
一方俺はといえば、例によって魔物に追いかけられに行く。
この時期になると大量発生するトラウマ増産機ことシュガートレントだ。
こいつらは性別が男であれば小動物であろうが魔物であろうが人間であろうが関係なしに、ひたすらに、それはもうどこまでも追いかけてくる恐怖の権化である。
そして走れば走る分だけシュガートレントから採れる砂糖が上質になるという。
しかし厄介なのが、女性が近くに行くだけで砂糖の品質がものすっごく低下してしまうというもの。
その為発生した場所は野太い悲鳴が木霊する女子禁制の恐怖の地となる。
「「「オドゴォォォォォォォォォ!!」」」
なんで俺は複数体に追われているんだろうね?
周りを駆け回る他の雄や男達は大抵1匹なのに、俺だけが何故か複数のシュガートレントに追いかけ回されている。
しわがれた老婆の顔を持つシュガートレントが根をワサワサと動かして走っている様は恐怖以外の何者でもないのに、なんで俺だけが複数!?
「理不尽だーーー!」
走る走る走る、ひた走る!
めっちゃ怖い!
でもこの砂糖を持っていけば絶対セフィア達が上手く活用してくれるはず。
だからめっちゃ怖いけど頑張る!
「「「「「「オドゴォォォォォォォォォ!!!」」」」」」
「増えた!?」
諦め……いやだが……でも怖……
「「「「「「オドゴォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」」」」」」
やってやるよちくしょー!
◇
〜セフィア視点〜
「た、ただいま……。」
「レントどうしたの!?」
「これ……。」
「これって……シュガートレント? もしかしてレント……。」
「後は、任せた……。俺はちょっと休むから……。」
「あ、うん。……レント、あんなになるまで頑張ってくれたんだ……。」
でもレント、ここアデラードさん家だよ?
ただいまはどうかと思うな。
レントがシュガートレントを持って来てくれたからそれを使ってチョコを作る。
みんなは何を作るのかな?
そして僕は何を作ろう?
「それにしても意外だったね。レントがチョコを貰った事ないなんて。」
「確かにそうね。レントなら結構貰っててもいいと思ってたのに。」
「あー……あれにはちょっと理由があるのよね。」
「え、何々?」
アデラードさんが意外だと言いだし、そしてアカネちゃんが同意する。
僕もその意見には同意かな。
だってレントはあんなにかっこいいんだもん。
僕が日本にいたら絶対にほっとかないのに、どうして貰えてなかったんだろ?
「実際あいつは、小中と女子に結構人気あったのよ? でも、日本だと結婚とか付き合うってのは1人じゃない? だから互いに牽制しあってて、そのせいで誰も渡せなかったのよ。渡そうとしても邪魔されて……。」
「何それ、凄いわね。」
「高嶺の花より身近なイケメンって事なんでしょうね。それにあいつの家、結構裕福だし。」
「そうなんだ?」
「おじさんが一流企業に勤めてておばさんもキャリアウーマンしてたからね。」
きゃりあうーまん?
なんかよくわからないけど、結構凄いんだと思う。
レントのご両親か……会ってみたかったな。
「それよりも手を動かしなさいよ。あまり時間ないんだし。」
「あ、それもそうね。」
「うわっ! もうこんな時間!?」
もう4時近く。
夕食頃には渡したいし、急がないと……。
レシピは前にアリシアさんがダンジョンを作った時のがあるからそれをつかえばいい。
でも、何を作れば……あ、これなんてどうかな?
チョコレートタルト。
これにさっき見た生チョコってのを組み合わせてみたらどうかな?
そして生クリームでデコレーション。
うん。
美味しそうだし、そうしよう。
◇
かなり時間がかかっちゃったけど、食後のデザートには間に合った。
「レント、ハッピーバレンタイン! 僕からはこれだよ。生チョコタルト。」
「うわぁ、凄い、美味そうだ。早速食っていいか?」
「もちろん!」
「甘さが控えめで俺好みの味だ……それにサクサクのタルト生地がいいアクセントになってて美味いな。」
「本当? 良かったぁ。」
僕の後にみんなもそれぞれ手渡していく。
ユウキちゃんが渡す前に義理だと言っていたけど、前に結構好きだって言ってたし、後少しかな。
レントが喜んでくれたし、みんなも笑顔で、凄くいいバレンタインになって良かった。
〜少年時代の真実 蒼井視点〜
「ここを通りたければ私を倒してからにしなさい!」
「な、なんなのよあんた! 風見君の何なのよ!」
「私はお兄ちゃんの妹よ! お兄ちゃんに近づく虫は私が蹴散らすんだから!」
「い、妹がなんで邪魔するのよ!」
「妹だからこそ、お兄ちゃんに相応しくない女を近づけない義務があるのよ! さあ、かかって来なさい!」
学校は遠足の時以外はお菓子の持ち込み禁止だから必然的にチョコを渡すには一度家に帰る必要があるけど、だからって家の前で待ち構えるとか、本当に唯はブラコンよね……ちょっとあの子の将来が心配だわ。
「また来年に出直してくることね!」
「お、覚えてなさいよー!」
今年も突破した者は無しか。
明日になったらフォローしないと唯がイジメにあいそうね。
まあ、唯に気に入られるのが蓮斗に近づく1番の近道とか言っておけばいいか。
それじゃ、このチョコを渡しに行こうかな。
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