第806話 連携の訓練は終了となった。的なお話

俺が構築した透晶魔装は杖を覆い先端を尖らせたものだったが、進化し、不本意ながらユニークとなった千変魔杖術の影響からか、もっと効率のいい形状があると本能が告げる。

……まあ、出来るのは限らないんだけど。


スキルに関して詳しく調べるのは後にして今はゴーレムの相手だな。

先端を尖らせたから削りやすくはあるけど、それでもまだまだ時間はかかりそうだ。

…………やはりあれを使うべきか?

折角スキルが進化したのに、あれを使うのはどうなんだ?

だが、こうしている間も刻一刻と時間が過ぎていっている。

わがままを言った上に長々と時間をかけるのはどうなんだ?

いや、まだだ。

まだあれを使うのは早い。

今はとりあえず攻撃の回転数を上げて行こう。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」


ゴッ、ガスッ、ガリッ、ギャリッ、ザフッ、と音を立てながらゴーレムを削っていく。

素材が訓練場の地面だからこんな音してる。

これが岩とかだとまた違った音なんだろうなぁ。

そして、やはり棒では削るのにも限度がある。

そもそも細いもん。

そりゃ大して削れないよ。


「おっと!」


背後を取ってガリガリとやっていたけど、裏拳を放って来たので屈んで躱す。

仕方ない。

あんまり時間もかけられないし、あれを使うか。

初めて使うわけだけど、ちゃんと使えるかね〜?


「ハッ!」


ゴーンと音を立て、手に反動が来る。

だが、こいつの真価はここから。


「おりゃっ!」


殴った後、ゴーレムに押しつけるようにしながら引っ張れば、ゴリゴリと音を立てながら削れていく。

おー。

やっぱさっきよりも全然効率がいいな。

流石巨大ヤスリ。

正式名称フレグランス。


棍に関しての心得は無いがヤスリならある。

細工で結構ゴリゴリやってるし。

だからなんとかなるだろう。


その後、右脇腹を重点的に狙って削っていき、自重を支えられなくなったゴーレムは胴体で真っ二つとなり俺の勝利となった。

魔法を使えばもっと楽だったろうし、断罪炎覇ならば一撃だったろうけど、なんだかんだで収穫があったしやってよかった。


「お疲れ様。しかし、何故魔法を使わなかったのですか?」

「いや、使ったらすぐに終わるじゃないですか。それじゃ1対1でやる意味ないじゃないですか。」

「私のゴーレムが一撃で終わると言うのか?」

「え、いや、そんなつもりはないよ。ただ、さっきのを見ていた通り、一回で攻撃できる範囲が狭すぎるんだよ。だから広範囲を攻撃できる魔法の方が早く終わるって言っているだけだよ。」


ビスカさんがムッとしていたが、説明したら納得したようだ。

本当に一撃で終わらせそうだとは思ったけど言わない方がいいよね。

ちゃんと準備さえすれば重唱だって使えるし、ファイヤーボムを限界まで高めればかなりの破壊力になるだろう。

世の中には知らない方が幸せなこともあるってなんかで見たし言わぬが花ってね。


「それにしても……意外と使えるね、それ。」

「ああ、でも、もう1つ欠点を見つけた。これ、手入れが大変だ。」

「え、あ〜、確かに。」


セフィアが顔を巨大ヤスリに近づけて言う。

その様子も可愛いと思うが、今は巨大ヤスリについてだ。

このヤスリ、ゴリゴリとゴーレムを削った関係でとげの間にびっしりと土がついてしまっている。

手で全部落とすのも大変だし、かといって道具を使っても、すぐにその道具を駄目にしそうだ。

しかも、今はまだ土だからましだが、スライムなんかの粘性のあるのや粘りの強い何かを持つ魔物を相手にした場合だとネトネトしてなお洗いたくない。

これはあれだね。

ウォータージェットの高圧洗浄機みたいな感じで水を出せるようになるまでは使用は控えよう。


その後日が暮れるまで、編成を変えたりしつつゴーレム戦闘を繰り返して、今日の連携の訓練は終了となった。

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