第799話 木剣、折れちゃった……。的なお話

相手は大盾使い。

じっくりと構えて隙を伺うのだろう。

しかしそれでは戦いが長引くだけだし、盾使いと戦いたいと言ったのは俺だ。

ならばここは俺から攻めるべきだろう。

そう思って駆け出すのだが、何故か向こうも同様に走って来てそのままシールドチャージしてくる。


「はあ!?」


なんでいきなりシールドチャージ!?

意味が分からない!?

大盾はその防御能力を活かした戦い方をするのが普通じゃないの!?

いくら我流で泥臭いのを期待してても限度があるよ!?


「くっ!」

「まだだ!」


シールドチャージを躱し、距離を取った俺目掛けていきなり片手斧を投げつけてくる。

メイン武器じゃないのかよ!?

しかし、これを躱せば相手は大盾のみ。

と思ったが第2投が飛んでくる。

まさかあのカバンはアイテムバッグ!?

というか、投げ斧とかあんたはフランク族か!


何度も投げられては敵わない。

ここは多少危険でも近づくべきだろう。

俺が近付こうとすると投げるのをやめ、武器を構える。

その斧は黒光りしており、装飾もあってどう見ても投げるのには使わないだろう見た目。


「……って! それ本物じゃないですか!」

「ん? あっ! すまんつい癖で。」


癖でそんなの使われたらこっちはたまったもんじゃないんですけど……。

そんなんじゃこっちの木剣は簡単に真っ二つどころか俺まで斬られてたじゃないか……。

それに、よく見たらさっき投げてきた斧のうち第2投目のも本物だし。

この人おっかないんですけど。

もう手合わせとかいいって思えてきたんですけど……。


「わりーな。んじゃ、仕切り直しと行こうか!」


しかも全然悪びれてないし。

だがまあ、今はちゃんと木製の模擬専用の物に戻ってるし、ちゃんとしよう。

ステータスをフルに使ってさっさと終わらせようかなと、一瞬心の大部分を占めたけどね。


また本物を投げられたら敵わないので、今度こそ接近戦をしよう。


「はっ!」


剣を打ち込む。

しかしこれは盾で防がれる。

それは分かっていた。

そしてその後に来るのは片手斧。

それも分かっていた。

上体を逸らして躱して斬り上げ、そこから右へ薙ぐ。

これも防がれる。

振り下ろされる斧を半身になって躱す。


攻防において重要なのは相手の隙を突く事、相手に隙を作らせる事。

相手に隙が出来るのは大振りになった時や無理な体勢での攻撃をした時などで、隙を作らせるのはこちらが相手の動きを誘導する事で出来る。

今回必要なのは隙を作らせる事。

相手は大雑把な人でやはり隙はあるのだが、相手は盾使い。

その隙自体もある程度把握しているようで盾で防げる程度の攻撃しかして来ない。

まあ、今はまだお互い様子見の段階だ。

相手の動きを把握し、癖を、隙を見つけるのだ。


そうした攻防を続ける中で、どうすれば隙が作れるか、戦い方を考える。

盾を掴んでこじ開けるなんてのは愚策中の愚策。

論外だ。

木剣だから攻撃に重みが足りないんだよなぁ。

いつもの剣なら強引に突破も出来るだろうが、それでは意味がない。

やはり盾持ちはやり辛い。

だからこそ意味があるんだけど。

そう考えている間にアンジェラさんが攻勢に出て来る。


「だりゃあ!」


盾によるアッパースイング、からの斧の斬り上げ、そこから回転しての盾の横スイング。

そしてシールドバッシュ。

この4連撃はかなり危なかったが、大きくバックステップをする事で躱す事に成功した。

盾というのはめんどくさいな。

防御能力が高いし無理に行くと隙が出来てしまう。

盾◯勇者の成り上がりの某槍のは向こうからの攻撃がないからこそ自由に攻撃出来ていたが、普通は反撃を警戒するだろう。


とはいえ、このままだとラチがあかない。

ちょっと戦い方を変えよう。

普段の俺は足を止めてってわけではないが、真っ向からぶつかるような戦い方をしている。

だがこれは相手の土俵でもある。

盾は本来守る為の物で、それはじっと耐えるのにも長けているという事だ。

だから俺は、攻撃は少なく、足を使い相手を翻弄するヒットアンドアウェイに戦い方をチェンジした。

もちろんそういう相手との戦い方もしているだろう。

だが、そいつらとは攻撃の重みが違うだろう。

そこが狙い。


防いで反撃というのが難しくなるように一撃一撃に力を込め反撃する余裕をなくそう。

足を止めるな。

一つのところに留まるな。

攻撃する隙を与えるな。

相手が防ぐために盾に意識を向けさせろ。

反撃しようという焦りを見逃すな。

その焦りから生まれる隙を狙え。


しかし終わりは突然やって来る。


ーーボキッ!


「「あ……。」」


木剣、折れちゃった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る