第790話 どうかと思うんだけど。的なお話

完全に忘れてしまっていたが、1人だけ置いてくるわけにもいかない。

というわけでユキノを連れに宿レイランまで向かう。


「あ、レントさん、ルリエちゃん、それに皆さんも。おかえりなさい。」

「ただいま……って言いたいんだけどね。今日はアデラードさん家に泊まるから。」

「あ、そうなんですね。」

「それでユキノって帰ってきてるかな?」

「ユキノさんですか? 帰ってきてますよ。」

「そう。教えてくれてありがとう。」

「いえ。」


タイミングよく番頭をしていたレイちゃんが居たのでユキノが帰ってきてるか聞いたところ帰ってきているそうだ。

いやー、帰ってきててよかった。

もしもまだなら探しにいかないといけないし。

すぐに見つかるならまだいいけど、長時間探し回ったあげく、実は行き違いですぐに帰ってきてましたー。なんてのは勘弁だ。

だから、帰ってきてて良かった。


「ん、おかえり。」


シア、ルナ、ユキノが使っている部屋に入ると読書をしていたユキノがおかえりと言ってきた。


「む、アデラードさんも居るのか。」

「あ、ああ。今日はアデラードさんの家に泊まる事になったけど、ユキノはどうする?」

「そうか。ならば私も泊まらせてもらおう。」

「だ、そうです。」

「もちろんいいよ。」


なんだろう……?

すごく居心地が悪い。

いや、原因は分かってる。

完全に忘れていた事に対して引け目を感じているからだ。

しかしそんな事はつゆ知らず、ユキノは普通に話してくる。

いや、言ってないから知らないのは当然なんだけどさ。


「そういえばユキノ、買いたいものってなんだったの?」

「まあ、色々だ。だが、肝心の本命がどこも売り切れていてな、探すのに時間がかかった。」

「へー。本命ってなんなの?」

「これだ。」

「えーと、『忍外伝・ドラゴンだろうと俺の忍術で一刀両断だってばよ』? 何これ?」

「うむ。勇者が伝えた作品の世界観で新たな主人公を用いた外伝作品だ。」

「いや、その作品にドラゴンなんて……いやどうだろ? 爆弾魔がそれっぽいの作ってたような……というか、それって著作権侵害じゃないの?」

「著作権? なんだそれは?」

「そうだった……ここ異世界だった。というか、すでに著作権とか関係なかったわ。」


俺が気まずいなと思っているのに、そんな事は御構い無しとばかりに蒼井はユキノに質問していく。

人の気も知らないで……。

もういい。

俺も気にしない事にする。

それに言わなければどうせバレない。

この秘密は墓場まで持って行こう。

安い秘密だけどな。


気まずさをそこら辺にポイしてエリュシオン邸に向かう。

そこでふと馬車について気になった。

迎えを寄越してくれる時は馬車だけど、それ以外の時は馬車とか全然使ってないや。

普通貴族は馬車に乗って移動するんじゃないの?

だから聞いてみた。


「そういえば、貴族って移動の時は常に馬車とか使うんじゃないんですか?」

「あー、そういう貴族もいるね。でも私、そういうのあんまり好きじゃないから。馬車乗ってると自分は偉いんだぞ〜って威張ってるみたいだし、堅っ苦しいじゃない? それに、私馬よりも早く走れるし。状況によっては使うけど、そうじゃない時は歩くし、急ぐ時は普通に走ったほうが早いから。」

「いや、アデラードさんが走ったらぶつかった人大変な事になりません?」

「大丈夫だよ。その辺はちゃんと考えて走ってるから。」


普通に走ってるんかい!

全然貴族っぽくないんですけど……あ、それは元からか。


「後は、仕事の関係上帰る時間が不定期だからね。いつでも馬車でって訳にもいかないんだよ。」

「あー、なるほど。普通のとこならともかく、ギルドマスターともなると忙しいですし、決まった時間に帰れる訳じゃないですもんね。」

「そうなんだよ。朝からずっとギルドに置いとくのも可哀想だし、かと言って時間指定しても帰れなかったら無駄骨じゃない? だから使わないようにしてるんだよ。」

「そういう事なんですか。」


と、疑問が解消したところでタイミングよくエリュシオン邸にたどり着く。


「お帰りなさいませ。」

「うん。ただいま。」

「夕食、人数増えたからよろしくね。」

「かしこまりました。」


人数増えたと気軽にメイドに言う様は貴族っぽい。

でもそれはそれとして、何人かアデラードさんだけじゃなくて俺に向けてもお帰りなさいませって言ったんだけど……。

リゼットさんはまだ分からなくもないけど、他のメイドさんまで言うのは流石にどうかと思うんだけど。

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