第745話 どんなものか確かめようかね。的なお話

ギルドマスター室を後にして、とりあえずリナさんのところに向かっていると、珍しい事に馬鹿と遭遇した。

何故かあまり会わないんだよな。

あ、普段俺訓練ばっかしてるからか。

そりゃ会わないわな。


「一体どこから出てきてんだよ!?」

「ん? ギルドマスター室だけど?」

「だけど? じゃねーから! お前一体何したんだよ!?」

「何って……普通に会いに?」

「なんでだよ!?」

「いやだって、俺教わってるし。」

「あ……。」


どうやら忘れていたようだ。

まあ、ギルドマスター室から出てくるってのは普通何か呼び出されたと思うものだよな。

……普通、か。

分かってはいたが、俺は普通から少しばかし外れていたようだ。

今更どうすることもできないけどな。

はっはっはっは!

はぁ〜……。

とりあえず、一流冒険者に近づいたとポジティブに考えておこう。


「な、何もないんだったら、それでいいんだ。」


どうやらこの馬鹿は心配してくれていたようだ。

それなのに俺は存在自体忘れていたとは……なんか、ごめんな。


「それで、お前らはどうしたんだ?」

「え、ああ。そろそろ狩猟大会だからな。その辺の依頼があると思って見に来たんだよ。」

「ああ、狩猟大会なら1週間後だって。後間引きが3日後だとさ。」

「ちょっ、なんでお前がそんなこと知ってんだよ!?」

「さっき聞いた。」

「はぁ……なんかもう、ツッコむのも疲れたよ。」

「お前ならまだやれる! ここで諦めるな!」

「そ、そうだよな……って、なんでだよ!?」

「ほら、まだやれたじゃん。」

「はっ!」

「それで、お前は依頼はどうするつもりなんだ?」

「あ、ああ。今回はDランクが対象だって話だからな。取り敢えず間引きだけ受ける予定だな。」

「そうなのか。こっちは本番の護衛を頼まれたな。ほら、この通り。」

「くっ! いつからここまで差が出来たんだ……?」

「生まれた時から?」

「そんなわけないだろ!? 待ってろよ! すぐに俺も指名依頼を受けるようになってやるからな!」

「待つ? 別に待つような事じゃないだろ? というか、普通に頑張れば?」

「……そのローテンションで返されるとなんか俺が馬鹿らしいじゃないか。」

「馬鹿らしいも何も、お前は馬鹿じゃん。なぁ?」

「「「そうだな。」」」

「おい! なんでそこで声を揃える!?」

「だって、クルトだしなぁ。」

「だよな?」

「俺に味方はいないのか!」

「私は馬鹿でもクルトのこと好きだよ。」

「馬鹿を否定してくれ!」

「「「はははははは!」」」


パーティ仲はいいようだな。

全員クルトを弄ってるけど。


「と、これをリナさんに渡さないといけないし、またな。」

「え、あ、ああ。またな。」


適当に弄り倒して収拾つけずに退散というのもどうかと思わなくもないが、別にいいよな?

だってクルトだし。

それに、こうしてふざけて、馬鹿話して、それで別れてまた会えば普通に会話して。

そういう気楽な関係が何げに嬉しいんだよな。

そういう関係の奴らが日本にもいたけど、もう会えないし。

……やめやめ。

これ以上はしんみりするだけだ。

クルトとはこんな距離感が楽しい。

それだけでいい。


「リナさん、これアデラードさんからサインをもらってくれって。」

「あ、分かりました。」


書類を受け取ったらリナさんは名前をさらさらりと書く。

その間にちらっと、制作途中の広告を見てみる。

その広告は、なんていうか、地味?

必要な事は全部書かれているんだけど、文字オンリーだし、色も少なくて目を引かない。

いやまあ、こっちの世界ではカラーペンとか無いし仕方ないか。

それに下書きで後から色を塗るのかもしれないし、決めつけるのは早いよな。


「リナさん、それって色とか付けるの?」

「へ? これですか? 別につけませんけど、何故です?」

「いや、なんか地味だからさ、色とかあれば人の目を集めるんじゃないかなって思ったんだよ。」

「あー、確かに色とかついていると目立ちますね。でも、何枚も作るないといけませんから、流石にそんな余裕ありませんよ。」

「そうですか。それなら仕方ないですね。」


こっちじゃ全部手書きなんだもんな。

日本だとコピー機という便利なものがあったからその辺の感覚が薄れていた。

日本の広告はどれもこれもカラフルだけど、こっちじゃそうもいかない。

ちゃんと意識を改めないと。


「そういう事ならあんまり長居するのもよくないですね。では、俺達はこれで。」

「気を使わせてすみません。では、また後で。」

「はい。」


さて、この後はセフィアご所望の買い物かな。

ついでに灼火の馬鹿どもの影響がどんなものか確かめようかね。

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