第743話 まずはみんなを起こそうかな。的なお話

出迎えてくれたアカネに連れられて食堂へと向かうと既にみんなはテーブルについていた。


「あ、お兄さん! こっちです!」


手招きするルリエの元へと向かい席に座り料理を注文して一息。


「どこも怪我してなさそうで良かったです。」

「ふふっ、5回目。」

「えっ?」

「みんな会う度に聞くもんでね。ルリエで5回目なんだよ。」

「そうなんですか。流石お兄さんです!」

「え? 流石?」

「はい! みんなに好かれてて本当に流石です!」

「そ、そう? それなら良かった。こっちの事もいいけど、そっちの方はどうだった? 誰も怪我してないよね?」

「はい。誰も怪我はしてませんよ。」

「ほっ……。それは良かった。それでさ、良かったら俺達がいない間に何があったか教えてくれない?」

「それなら私が話すわ。」

「アカネが?」

「ええ。私の方が伝えやすいから。」

「それじゃ頼む。」


アカネが説明しやすい、ね。

どんな事があったんだろう?

ジェイル家か、それともユースティア家か……もしくは貴族関係なのだろうか?


「『灼火の豪炎』って、覚えてる?」

「却下の講演?」

「『灼火の豪炎』。夜会の時にいた冒険者パーティよ。アデラードさんに弟子入りしようとして断られてた。」

「あー。居たね、そんなの。子供の相手ばかりしてた印象が強くて忘れてたわ。で、その灼火さんがどうしたって?」

「襲って来たのよ。」

「そいつ今どこにいる? ちょっと吹っ飛ばしてくる……腕とか。」

「ぶっ飛ばすじゃなくて吹っ飛ばす!? 物騒すぎるわよ!」

「大丈夫大丈夫。きっと神様も許してくれるよ。」

「全然大丈夫じゃない! それとリリン! どこに行くつもりよ!」

「軽くサクッとやってくる。」

「やらなくていいから!」

「よし行こう、リリン!」

「ん。」

「行かないで! ……大丈夫よ。誰も何もされてないから。それに、リーダーにはお呪いが発動したし。」

「むぅ……。」

「むぅ、じゃないわよ、全く。ちゃんと説明するから落ち着いて。」


そうして語られた内容は驚かざるを得ないものだった。

何せ、仮に俺の悪評が広まったところで灼火の連中が弟子入りできるわけではないからだ。

まあ、そもそも俺の悪評が多少広まったところで既に親密な仲であるアデラードさんが信じるはずないのだが。

噂の出所を調べて犯人を見つけ、追い詰めるくらいの事は造作もないだろうし。

そして、その後の行動。

何故武力行使に出た?

アカネは貴族の出身だと言う事は夜会の時にちゃんと言ってあったはずなのに……ま、馬鹿なんだろう。

所詮は冒険者だしな。

ヤサ男を演じても学の無さは隠せないって事かね。


「それはそれとして、やっぱ一発殴ってくる。」

「やめなさい!」


ちぇっ……。

ま、お呪いによる罰は受けてる事だし、それで勘弁してやるか。


夕食を終え、部屋へと引っ込む。

リナさんは相変わらずリリン達の誘いも断り他の部屋に泊まる。

その身持ちの硬さに好感を覚える。

リナさんは何かプランとか理想があるのだろうし、その理想を是非とも追求してほしい。

積極的なのもそれはそれで愛されている実感が湧くから嬉しいんだけどね。



「んっ、ふぅーー、はぁ。」


朝。

寝具を使って寝た事で気分爽快、すっきりとした目覚めをすることができた。


「きゃー! 遅刻しちゃうぅぅぅ!」


扉の向こう側。

寝坊したリナさんが慌ててギルドに向かう音が聞こえる。

うん。

これぞ日常。


さて、それじゃ、今日も頑張りますか。

でもその前に、まずはみんなを起こそうかな。

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