第742話 まずはこれを言っておかないとな。的なお話
お昼を食べ、食後にのんびりとおしゃべりをしている時に、ふいに欠伸が出た。
「おや、おねむっすか?」
「食後だからかな? 後はやっぱ疲れてるんだと思う。」
食後だというのもあるだろうが、やはりちゃんと寝れていないからだと思う。
いくら交代して睡眠時間を確保したと言っても、ちゃんとした寝具を使ったわけではないし、野営の為のテントを立ててそこで寝ただけだったし、どこか疲れてしまったのだろう。
転移魔法で宿に帰るわけにもいかないしな。
もしも帰ってきてることがバレたら面倒な事になるし。
「仕事もあるだろうし、俺達はそろそろ帰るよ。」
「え? もっといてくださいっす!」
「いや、邪魔したら悪いから。」
「でもでも……あ、だったらウチで寝ていけばいいっす! 幸い両親の部屋に客間もあるっすから寝る場所は十分あるっす!」
「そんな悪いよ。」
「そんな事ないっす! 私としてはもっとレントさんと一緒にいたいっすから! それに、ここで寝れば寝過ごして夕食を食いっぱぐれる事もないっすよ!」
「あー、じゃあ、少し世話になるよ。」
グイグイ詰め寄って来るアイリスさんの熱意というか、欲望に負けた。
あんな顔されて断れるわけがない。
そんな奴いたら顔面にグーパンだ。
まあ、起こしてくれると言うしそこは頼らせてもらうか。
宿にいても誰かが起こしてはくれると思うけど、この熱意は断れないさ。
実際はアイリスさんに起こされたいだけなんだけど。
好きな人に起こしてもらうのは嬉しいものなのだ。
「じゃあ、レントさんはこの部屋を使ってくださいっす。」
「いや、あの、ここってアイリスさんの部屋じゃ……。」
「そっすよ。客間や両親の部屋があっても5人分の部屋はないっすから。後はまあ、次自分が寝る時、布団からレントさんの匂いがしたら幸せだろうなと思って……。」
「あ、うん。」
うわ。
そんなこと言われたら俺まで意識してしまうじゃないか……。
アイリスさんの匂いがする。
なんか、ドキドキしてきた。
これで寝れるのだろうか……?
◇
「レントさーん。起きる時間っすよ〜。」
「ん……ふぅ……。」
「起きないと、き、キスしちゃうっすよ……。」
「キスして欲しいから、まだ起きない。」
「なっ!? ななな、えと、その、本当にしちゃうっすよ?」
微睡みの中で聞こえたアイリスさんの声。
その内容に一気に覚醒した頭が導き出した答えはキスの要求だった。
いや、まだ寝ぼけてるのかも。
「で、では、失礼して……んっ。」
本当にキスしたよ……なら起きないわけにはいかないな。
「おはよう、アイリスさん。起こしてくれてありがとうね。」
結構がっつり寝させてもらったようで、もう夕飯時になっている。
起きたばっかりだが、体はすでに夕飯をご所望のようで空腹感を訴えてきている。
「それじゃ行こうか? どうせ来るんでしょ?」
「もちろんっすよ!」
アイリスさん、リナさんを連れて宿レイランに向かう。
「レント? もう帰ってきたの?」
「まあね。悪い意味で言ってるわけじゃないんろうけど、なんかそう言われると帰ってこなくてもいい風に聞こえるな……。」
「そんなつもりないって。おかえり、レント。怪我とかしてないわよね?」
「してないって……くくっ。」
「ちょっ、何いきなり笑ってるのよ?」
「いや、みんなに心配されていたんだなって改めて実感してね。」
「みんな?」
「うん。もうそれ4回目だからね。」
「あー、そっか。そういうこと。でも、なんでここが最後なの?」
「だってここが帰って来るところだからな。」
そう。
俺が帰って来る場所はここなのだ。
自分の家じゃないのがちょっと情けないけどね。
ともあれ、まずはこれを言っておかないとな。
「ただいま。」
「おかえり。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます