第733話 本当に、俺の嫁はかわいいなぁ。的なお話

野営場所としては拓けていて周囲を見やすい所が好ましい。

川の近くなども野営場所の定番だけど、そこは魔物も水場として利用している可能性があるので今回はなし。

というか、川の近くって地球の話か?

野生動物は人間を怖がるって話を聞いたことあるけど、魔物はむしろ率先して人間を襲うからな。

となると川の近くは野営場所としては適さないのか?

ま、川の近くは野営じゃなくて休憩に使うのが無難か。

後は森の深部から離れるようにするってところかね。

わざわざ強い魔物がいる所で野営なんて馬鹿のすることだ。


そうして野営に適した場所を探すこと30分。

時刻は既に日が傾く頃合い。

しかし森の中ということもあり鬱蒼と茂る木々によって明かりは完全に遮断され暗闇が支配している。

ちょいまずったな。

折角時計内蔵型異世界だというのに時間を確認するのを怠ってしまっていたよ。

意識するだけで視界の端に時間が出現する安心設計は異世界情緒に欠けるが、非常に便利なのでツッコミしづらいところ。

今回はそれも確認不足で無意味だったわけだが。


「見つけた。」

「魔物か?」

「違う。野営場所。」

「へー、どれどれ。」


リリンが指差す場所を見るが……暗くて良く見えない。

とはいえ、リリンの言うことなので間違いなく野営に適した場所があるのだろう。

リリンは言葉数は少なくとも基本正直者なので嘘はまずつかない。

そのリリンが見つけたというのだから適しているのだろう。

でも一応確認はしておきたいので……。


「リリン、周囲に魔物の気配は?」

「…………ない。」

「そうか。」


確認の為に明かりを使うけど、周りに魔物がいたら集まってきそうだしね。

野営の時にも火を使うけど、それはそれ。

今は奇襲さえされなければそれでいい。

その為の質問。


「うん。良さそうだな。」


火の玉を作って明かりにする。

それで確認してみれば少しだけスペースのある空間があった。

一晩だけだしこのくらいでも十分だ。

そもそも、人の手の入ってない所でそんなに広い空間があるはずもないし。

そんなのあったら魔物が何かしてると考えた方がいいと思う。

チート主人公ならばここで一気に開拓してログハウスまで設置したりもするのだろうが、あいにく普通の異世界人なんでね。

そんなことはできません。

物理的に不可能です。


というわけで、俺は普通にテントを設置しその間にセフィアが土魔法で地面を掘り返して雑草を処理。

その上に火を起こし、その火を使って調理をしてもらった。

夕食を食べて人ごこちついた所で明日からどうするかの相談だ。


「とりあえず最初に聞いておきたいんだけど、探索は何日くらいを予定してるの?」

「いや、特には決めてないぞ。ただまあ、狩猟大会の事もあるから3日くらいかなとは思ってる。」

「ふーん。つまり後2日ね。じゃあ、依頼の期日は?」

「そっちはあと1週間。」

「じゃあ、明日は丸1日使ってハードジャイアント。発見と討伐出来るのが理想かな。で、3日目は倒せてなかろうが、見つけられてなかろうが関係なしにハードジャイアントはきっぱりと諦めてブラックローラーの探索と討伐。それが済めば即帰還でどう?」

「うーん。ま、無茶は出来ないか。無理無茶無謀……すなわち冒険をするのは誰かの命がかかってたり、誇りをかけてたりといった時にするべき事で、なんでもない時に冒険はすべきじゃないよな。分かった。シアの意見に賛成だ。みんなはどうかな?」

「僕もそれでいいよ。仮に3日目で見つからなくても4日目に帰りながら探せるしね。」

「ん。」

「私も、それでいいと思う、よ。それに、レントはみんなと、あまり離れていたく、ないよね?」

「もちろんだとも。それを考えたら尚のことシアの意見に賛成だな。」

「ふーん。僕達よりも、残ったみんなの方がいいんだ?」

「な、そんなわけないだろ。俺はみんなのことが大事だよ。」

「本当かな〜?」

「本当だ。なんなら、ここで証明しようか?」

「え、ここで? ここ外だよ?」

「何を考えてるのかな〜? 俺はただ単に思いの丈をぶつけるだけのつもりだったのに……。」

「〜〜〜〜。バカー!」

「「「あははは!」」」


セフィアがからかうように言ってきたから逆にからかってみたんだけど、すごくいい反応してくれた。

いや〜、本当に、俺の嫁はかわいいなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る