第730話 けちょんけちょんに伸してやるからな。的なお話

う……もう朝か。


「ふぁ……。」


まだちょっと眠いが、今日はこれから森に行ってリベンジをしないといけないから二度寝というわけにもいかない。


「ほら、朝だぞ〜。起きろ〜。」

「もうちょっと〜。」

「だーめ。早く起きて。」


昨晩はマッサージを受けて気持ちよく寝れると思っていた。

しかし、「しばらく会えないなんて寂しいっす。」なんて目をキラキラさせながらの上目遣いなんてされ、その上でベッドへと誘われれば断れるはずもなく……。

普段なら依頼前だからと疲れることは避けるが、今回はそれは無理というもの。

離れ離れになる4人を重点的にかわいがった結果若干寝不足になってしまった。

まあ、それでも仲が悪化するよりかはマシだ。

眠気も移動しているうちに吹き飛ぶだろう。


ぐずるみんなを起こして食堂へ。

すでに起きていた2人とともに朝食を食べる。


「今日からハードジャイアントの討伐へ行くわけだけど、その間のことはよろしくね、アカネ。」

「分かったわ。」

「なんでアカネに言うのよ?」

「そりゃ、アカネが留守番組の5人の中で1番ランクが高いから。」

「そういえばそうね。」

「くっ! なら、私もBランクの魔物を狩りまくって昇格するわよ!」

「却下だ。たった5人だけで行かせるわけないだろ。昇格を目指すにしてもしっかりと準備をしてからだ。」


全く……これだから蒼井は。


「そんなわけで、みんなのことよろしくな、アカネ。」

「はいはい。分かったわ。」

「知らないところで無茶して怪我するのとか、俺はヤだからな。だから、ちゃんと自重しろよ、蒼井。それから、レイダさんも。2人は猪突猛進な所があるから心配なんだよ。」

「心配? あんたが? 私を?」

「当たり前だろ。大事な仲間の心配をしない奴がどこにいるってんだよ?」

「へ、へー。心配するんだ。そこまで言うんなら仕方ないわね。」


蒼井の奴も理解してくれたようだ。


「ルリエとユキノも身の回りには気をつけてよ。もちろんアカネも。」

「はい。」

「もちろんだ。」

「分かってるわ。」

「それからアイリスさん。この5人とは違って冒険者としての仕事とかは無いから何かあるってのはそうそう無いだろうけど、それでも気をつけてよ。夜道とかさ。」

「心配してくれてありがとっす。でも、大丈夫っすよ。レントさん達は安心してリベンジして来るっすよ。」


朝食を食べ終え、準備を終えたらギルドへ向かうが、その前に。


「それじゃ行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」


セフィア達もそれぞれみんなに挨拶をしてから出かける。



ギルドへは出発の挨拶をするために来た。

依頼はすでに受けているのでわざわざ来る必要はないのだが、アデラードさんには言っておかないと、少し時間ができたとか言ってふらっと遊びに来ないとも限らない。

その時に知らせてなくて無駄足になるのは申し訳ない。

それに何より、アデラードさんにだけ知らせないというのは良くない。

アデラードさんもちゃんと恋人なのだから。


「おはようございます、レントさん。今日はどうしましたか?」

「おはよう、リナさん。今日からハードジャイアントに挑もうと思ってその挨拶にね。」

「あ、今日行くんですか?」

「うん。」

「怪我しないよう祈ってますから、頑張ってくださいね。」

「任せて。それで、アデラードさんいる?」

「アデラード様なら今もギルドマスター室で仕事をしているはずですよ?」

「分かった。ちょっと行ってくる。」


ただの冒険者がギルドマスター室へ気軽に行けるというのもどうかと思うが、今更だな。

というか職員さん達もそばを通っても普通に仕事したままだし。


「アデラードさん、ちょっといいかな?」

「ん? レント? どうしたの?」

「これからハードジャイアントの討伐をしに行くのでその前に挨拶をしておこうと思ってね。」

「ハードジャイアント? そんな依頼あったかな?」

「無いけど、前に依頼失敗したことがあったからそのリベンジをしたくてね。今日はそれでしばらくこの街を離れるって行っておこうと思ったんだ。」

「そうなんだ。でも、大丈夫なの? ハードジャイアントのような大型の魔物とはあまり戦ったことないよね?」

「ヤバそうなら逃げますよ。別に依頼を受けてるわけじゃないですから。」

「ならいいんだけど……でも、あんまり無茶はダメだからね。」

「分かってますって。それじゃ、行ってきますね。」

「あ、ちょっと待って。」


そう言うアデラードさんはトトト、と近づいてくると背伸びをして手を伸ばして俺の顔に触れ、キスをしようと……しようと……


「ごめん。ちょっと屈んでくれる?」

「あはは。喜んで。」


背が低くて出来なかった。

なので屈むように促すのに従い屈むと、チュッと、軽いキスをしてきた。


「ん。それじゃ、行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」


この部屋に他に誰もいなくてよかった。

ギルドを後にした俺達はそのまま森へと向かう。

待ってろよ、ハードジャイアント。

今度はけちょんけちょんに伸してやるからな。

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