第728話 ひたすらに鏃の生産だな。的なお話
「おかえりー。」
「「「ただいま。」」」
「遅かったけどどうしたの?」
「っ!? ど、どどどうもしないわよ?」
「何故に疑問形?」
「なんでもないわよ! ただ単に色々見て回ってたら遅れただけなんだから!」
「ふーん。まあ、別にいいけどさ。」
まあ、あんまり詮索すべきじゃないよね。
エロ本を買った男子高校生だってあまり追求されたくはないだろうし。
俺は買ったことないけどね。
そもそも18歳未満だから購入できないし。
風呂を済ませたら食堂にて夕食。
そこでアカネ達は何をやっていたのかを聞く。
「別に大した事はしてないわよ? 普通におしゃべりしたり、喫茶店でお茶したり、雑貨屋で小物見たりしてただけよ。」
なんとも普通な日常。
やってる事は日本でもよく聞くようなもので、異世界の、それも迷宮都市でするものなのか少々気になるところ。
でもま、女の子らしいし、それはそれでいいのかもな。
人生平和が1番。
夕食を終えて部屋に戻る。
そこで今日の成果である鏃のお披露目だ。
「それで、シアに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何? なんでも聞いていいわよ。あ、でも本に関しては答えられないからね!」
「本?」
「な、なんでもないわ! 忘れて!」
シアさんや。
自分で暴露してたら世話ないですよ。
まあ、そこにツッコむのも野暮というものだな。
「これなんだけど、使えると思う?」
「これって鏃? でも変な形ね。」
「ハードジャイアント相手だと普通の矢は刺さらない気がしてな。だから別のアプローチで攻撃出来ないかなって思って作ってみたんだよ。」
「ふーん。でもなんで鏃だけ?」
「他の部分の素材が分からなかったんだよ。矢羽根に関してもなんの羽根なのか分からないし。」
ちなみに鏃だが全部で4種類。
鏃自体が球体で打撃系統になっているもの。
先が細くなっている四角柱型のもの。
鏃がナイフくらいの長さになっているもの。
鏃が螺旋を描いているものの4種類だ。
球体と四角柱のは打撃武器として効果を発揮したらなと思ってのもの。
形状の違いだが、飛び方がどうなるか分からなかったから2種類作ってみたのだ。
ナイフくらいの長さのは直接狙うよりも弓なりに射る事で威力を出すことを想定している。
重力に引かれてかなりの加速が得られるのではと考えている。
詳しいことは知らんけど。
そもそも俺は高校に入学してひと月やそこらでこっちの世界に来たから、本格的な物理学とかは学んでいない。
だから、その辺の事はそこまで詳しくないし、詳しくなくて当然なのだ。
そして螺旋状のだけど、銃器類の銃身にはライフリングという溝があってそれによって螺旋回転させ真っ直ぐ飛ぶようにし、さらに飛距離も伸びると漫画やアニメ、ドラマなどで聞いたことがある。
それに螺旋回転していればドリルのように貫通力も上がるはずだ。
その辺の説明をしながらシアに見てもらう。
「うーん……ちゃんと使えそうなのは多分これだけね。」
シアがそう言ったのは螺旋の奴だった。
「理由を聞かせてもらってもいいか?」
「どれも重心が前の方にあるから飛距離が伸びないと思う。ちゃんと狙うのならこの矢に慣れる必要があるけど、それなりに時間がかかりそうだからすぐには無理ね。どちらかと言うと複数人で大量に放つのに向いた……言うなれば戦争向けね。冒険者の弓は精密性が命だから、あまり向かないわ。」
「なるほど……となると、これら全部死蔵って事?」
「全部って事はここにあるの以外にも作ってあるの?」
「時間の許す限り作ったから、3種類合計で100はある……かな。」
「こっちの捻れてるのは?」
「そっちは作るのが他のに比べて手間がかかるから10個……。1番大変なのだけ残るとか……。」
「えーと……ドンマイ。」
励まされるが、こんなの落ち込むしかないだろ。
最初の2つは金属を球体と四角柱に成型すればいいし、長い方は剣を作るのとそう変わらない。
基本使い捨て、再利用できればラッキーな矢だから、精々研ぐのに神経を注ぐだけで済む。
しかし、螺旋矢の方は違う。
鏃を螺旋状にしないといけない上に、刃の部分を研ぐ際、螺旋状になっているために大変手間がかかる。
そして矢は大量消費が基本。
落ち込むなという方が無理がある。
とりあえず、防具が戻ってくるまではひたすらに鏃の生産だな。
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