第696話 ご愁傷様ですとしか言いようがないな。的なお話

続々と集まる招待客。

まだ開始50分前だからか貴族の人は男爵くらいしかいない。

そして、集まっている招待客の大半である商人関係と冒険者関係は次々とアデラードさんに挨拶をしに来てる。

流石というべきなんだけど、俺はすごく居心地が悪いです。

アデラードさんの側にずっといるもんで、なんか気まずい。

これをうまく言葉にできないんだけど、気まずいし居心地が悪い。


そうして気まずさに耐えつつ時間が過ぎていくのを待っていると、珍しく顔見知りの人がやって来た。


「こんばんは、アカネ。それにアデラード様とレントさんも。」

「こんばんは、ナタリア。」

「こんばんは。私はおまけ?」

「そんなつもりありませんよ。」


あー、なんか落ち着く。

顔見知りが1人増えるだけでなんか落ち着く。


「それで、最近はどうですか? 依頼とか、探索について。」

「え、ああ。特に変化なし。アデラードさんの都合次第だけど、基本訓練だな。」

「そう……一緒にダンジョンに潜るという話はまだ無理そうですの?」

「まだ無理そうですの?」

「なにその真似? まあ、まだ無理かな。罠の対処法とか、罠が近くにある状態での戦闘なんかもやっておきたいし。」

「そうですか。そういう事でしたら仕方がありませんわね。」


まあ、リリンが罠感知のスキルを持っているとはいえ、あくまでもそれは罠の位置を知ることができるというだけのこと。

罠の無効化あるいは解除なんかは出来ない。

俺の罠適応はあくまでも確率で罠によるダメージを無効にするというもので、罠自体を無効には出来ない。

それに無効化する確率がかなり低く、発動せずに即死系の罠なんかにかかったら目も当てられない。


罠感知にしたってレベルが低過ぎて罠の場所が分かる程度でどのような種類の罠かなんて分からない。

一度作動したらしばらく発動しない物か、それとも連続で発動するのか、その見極めも必要だろう。

魔物を使って解除なんて方法もあるが、全部の罠でそれが出来るわけではない。

だから、安全に進むためには解除出来るだけの技術はあった方がいい、


罠が近くにある状態での戦闘というのも、経験が少ない。

カインにある初心者ダンジョンで罠を警戒しながら戦闘というのはやったことあるけど、あれは相手が格下で余裕があったことだし、何よりも死ぬことはないという安心感があった。

だから余裕を持って戦闘が出来ていたが、ここではそうはいかない。

ミスがそのまま死に直結したとしてもおかしくない状況で、果たしてそれで冷静に周囲を見ながら戦闘できるかどうかと言えば不安だ。

それに人数もあの時よりも増えてるしな。


「……ト、…ント、どうしたのレント?」

「え、ああ、罠についてちょっと考えていたんだ。」

「そっか。カインの初心者ダンジョンでは経験あっても、こことは状況が違うからね。」

「ああ、あの時は死んでも大丈夫っていう安心感があったしな。」

「本当に死なないのですか?」

「え、あ、ひょっとしてナタリアさんは初心者ダンジョン行ったことないのか?」

「ええ。私はこっちの方で生まれましたから。1番近くのダンジョンもここですし。」

「それなら知らなくても仕方ないかな。それで、どうなの?」

「なんでお前も聞いてんだよ……。」

「だって私は死んでないし。」

「……まあ、確かに死なないな。気付けばダンジョンの入り口に立ってる。」

「ひょっとして実体験?」

「ああ。モンスターハウスを突破して油断してな。罠に掛かって気付けば外だったよ。」

「そうなんだ。それなら尚のこと罠対策をみっちりと教え込まないとね。」

「うっ……藪蛇だったか。でも、必要なことだし、よろしくお願いします。」

「うん。任せて。」


と、話がひと段落した所でタイミング良くなのか、それともタイミングを見計らっていたのかは分からないが、近づいてくるメタボ。

というかデブ。

その服はいかにもクズな貴族ですよと言わんばかりにキンキンキラキラしている。

まさしくテンプレの鑑と言わんばかりの格好だ。


「おや、レジュル子爵では無いですか。貴方も招待されたのですね。」

「ええ、その通りですよ。それにしても、エリュシオン殿は相も変わらず可愛らしいですな。どうでしょう? 今度我が家で食事でも。ああ、そちらのお嬢さん方もご一緒にどうですかな?」


清々しいほどに無視かよ。

というか、見た目通りでびっくりだわ。

絶対その後何かするつもりだろ。


「生憎、忙しい見ですので、また後日お誘いください。彼女達も冒険者ですので恐れ多いとお思いでしょうから、勘弁してあげてください。」

「むぅ……まあ、今回は諦めましょう。では、また後日お誘いしますよ。それでは私はこれで。」


そう言うと去っていくレジュル子爵。

もちろんと言っていいかは分からないが、3人の事をそれはもう舐め回すようにじっくりと見ながらだ。

うわ、きっも。

3人もそのおぞましい視線を感じたのか身体をさすっている。

ご愁傷様としか言いようがないな。

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