第695話 神様とは知り合いだったな。的なお話
そして辿り着いた太守館。
時刻は午後5時目前。
日が暮れ始める頃なのだが、既にいくつかの馬車が太守館前に列をなして、入館の為の手続きをしている。
その馬車には家紋なんかが付いていないから多分冒険者か商人。
そして俺達の乗る馬車も無事に手続きを終えて玄関前で馬車を降りる。
馬車はハラルドさんが車庫にしまってくれる。
帰るときになったらまた乗せてもらう。
御者っていうのも辛い仕事だね。
数時間ずっと待ってないといけないんだし。
「ようこそおいでくださいました。招待状を拝見させてもらいます。」
「はいこれ。」
「確かに……そちらの方はどちらの同伴者ですか?」
「こっちの子だね。」
「分かりました。どうぞお入りください。係の者が案内しますのでそのままお待ちください。」
アデラードさんが2通の招待状を取り出していた。
そういえば、そういうのはあって当然だよな。
普通に渡してくれればいいのに。
まあ、楽でいいけどさ。
「本日はようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ。」
メイドさんに案内されて入った場所は広くて煌びやかな場所で複数のテーブルが用意されている。
部屋の隅には壁に沿うようにして椅子がたくさん置いてある。
休憩用かな?
そして、入り口の反対側の奥には楽団の人の物なのか、複数の楽器が置かれており、その楽器の前の所には広いスペースが確保されていた。
あ、これダンスあるやつだ。
「練習して良かったでしょ?」
「………ああ、そうだな。」
確かに練習しておいたのは良かったけど、だからといってダンスがしたいかといえばノーだ。
誰が好き好んで下手くそなダンスをやりたいと思うんだ。
やっぱりあれだな。
アカネとだけダンスして後は適当に隅っこの方で置物になるか、アカネにべったりとしてダンス&貴族とのエンカウントをやり過ごそう。
そう考えている間も続々と人が入ってくる。
中にはこの間のポルクのアホなんかもいる。
ポルクのアホはこちらにやって来ると一言二言アデラードさんに挨拶をするとそそくさと立ち去っていった。
どうやらアデラードさんの言う釘刺しが上手くいっているようだな。
「ギルドマスター、お疲れ様です。」
「ん? ああ、『灼火の豪炎』か。お疲れ。君達も呼ばれたんだね。」
「はい。光栄にもご招待いただきました。それで、そちらの2人が噂のお弟子さんですか?」
次にアデラードさんの元に現れたのは6人組の男。
そんな6人組は、お弟子さんと言うタイミングでこちらを見てきた。
その目には、負の感情が篭っている。
なんでこんな奴が……という事なのだろう。
「そうだよ。」
「確か噂では10人ほどという話でしたが……。」
「流石にこんな所まで連れ回したりはしないよ。今回は別口。彼女は貴族の娘でね、それで呼ばれてるんだよ。彼は彼女の同伴者って事だよ。」
「そうでしたか。それはそれとして、どうやら弟子を取らないという考えはおやめになったご様子。ならば私達も弟子にしてはいただけませんか? 自分で言うのもなんですが、かなり優秀だと思いますよ。それこそ、どこぞのポッと出の冒険者よりも遥かに、ね。」
ポッと出の冒険者って俺達のことですよね。
分かります。
「別に考えを変えたわけじゃないよ。このレント達は私のはとこのパーティメンバーなんだ。親戚のパーティメンバーが弱いというのは不安しかないからね。はとこを護ってもらうためにも鍛えてるんだよ。だから、君達のことを弟子にする気は無いよ。」
「……っ、そう、ですか。それでは、私達は他にも挨拶をしないといけない人がいるので、失礼させてもらいますね。」
「うん。じゃあまたね。」
去り際にこちらを睨んで来る6人組。
その中でも、特にその視線が強いのが先頭に立って話していたリーダーと思しき男。
見た目はまあ、かっこいいかな。
そしてそれがプライドにも繋がっているのだろう。
かっこよくて強い特別な俺、ってとこかな。
「ごめんね。あんなので。彼等は一応シルバーランクの冒険者でダンジョン専門の冒険者なんだ。そしてパーティ名からも分かる通り、全員が火魔法を得意としている。あの様子だと何をするか分からないから気をつけてね。」
「分かっていますよ。あれは思い通りにいかなくてイラついている目でしたから。」
はぁ……。
また面倒なことにならないといいな。
襲撃とかされなければいいけど、この前みたいに面倒ごとは勝手に解決したりしないものかな。
物語ではよくある展開だけど、実際にされる方は堪ったもんじゃない。
お願いします神様、どうか平穏な日々を過ごせますように。
あ、神様とは知り合いだったな。
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