第694話 べったりしてやり過ごそう。的なお話

「それで、サイズの方はどうかな? 動きづらいとかどこかキツイとか、そういうことはないかな? もしもあれば遠慮なく言って。すぐに直すから。」

「着慣れない服なので違和感はありますけど、そういうことはないですよ。」

「そっか。」


まあ、服の形がキッチリとしてるから若干動きづらくはあるのだが、新品の制服とかもこうだったからきっとそういうもんなんだろう。


それから待つ事30分。

漸く着替えが終わったアカネが降りてくる。

髪の毛はゆるふわな感じでイメージ的にはご◯うさのシ⚪︎ロちゃんな感じ。

ドレスは黄色よりのオレンジで、その上に薄いストール? なんかそういうのを羽織ってる。

そして首元にはネックレス。

この前一緒に買いに行った時のやつは頭についているので、これは知らないやつだけどよく似合っている。

腕には俺が作った紅玉の絆ルビーリンクの仲間の証でもある腕輪。

こういう時にも付けてもらえるのは嬉しいものだな。


「どうかな?」

「かわいい……すごくかわいいよ!」

「そ、そう? ありがと。」


まあ、簡単に言えば似合っててかわいい。


「アカネはどこか直した方がいい所ってないかな?」

「あー、えと、特に無いです。本当に……胸元も完璧です。」


完璧と言いつつその表情は優れない。

何故だろうか?

胸元に手直しした跡でもあったのだろうか?

もしもそうなら借りた相手が大きかったのか小さかったのか気になるって事なのか……?

まあ、男の俺には分からない事だな。


「それは良かった。じゃあ早速移動しようか。もう行かないといけない時間だから。」

「ごめんなさい。私の着替えに時間がかかったせいですよね?」

「そんな事ないよ。女の子の身だしなみに時間がかかるのは当たり前だし、私だってこれに1時間くらいかかってるからね。」

「そう言ってもらえるとホッとします。」

「じゃ行くよ。馬車の中で今日来る人たちの説明とかもするから。」

「「分かりました。」」


そんなわけで早速移動開始。

アデラードさんが作ったというパーティー用の煌びやかな馬車に乗って夜会の会場である太守館へ。

ここまで来てなんだけど、やっぱり緊張する。


「じゃ今回の夜会に参加する貴族について簡単に説明するね。今回招待したのは私達を除いて10家の貴族。急な事だからそこまで多くの家の人を呼べるほどの準備が出来ていないって体だからね。この10家も悪い噂のないところを優先的に選んだんだよ。でも、流石に系統を偏らせてしまうと公平であるべき立場の太守が何か良からぬ事を、と考えられる可能性があるから、3家程そうでない家を呼んだから、そこは注意してね。ここまではいいかな?」

「なんとか……。」

「それで、その3家だけど、この前の奴隷市の時のリストって持ってるかな?」

「持ってます。」


というかストレージに入れっぱなしです。


「この3つがそうだから。」


そう言ってアデラードさんが指差した名前の横にはもれなく印が付いている。

悪い噂というか、注意した方がいいという印。


「このポルク男爵は以前やって来た奴だけど、釘を刺してあるから多分大丈夫だと思う。問題はこっちの2つ。レジュル子爵とオーギナム伯爵。表向きは冒険者を支援すると言ってるけど、裏では過剰な金利で借金を作って冒険者をいいように扱っているって噂がある。証拠がないから手の出し用がないんだけどね。」

「なんでそんなの呼んだんですか!?」

「さっきも言ったけど、国が選んだ太守が特定の人や集団、派閥を優遇するわけにはいかない。公平性が無くなったら太守という役職の意味がないからね。」

「理屈はなんとなく分かってますけど……、もうちょっとマトモなのはいなかったんですか?」

「まあ、その辺のは太守が抑えてくれるはずだから。それに野放しになんかして置けないから、近いうちに証拠なりを集めて裁く予定だよ。だから、何か言って来ても堪えてね。」

「分かりました……。」

「次に商人。こっちはちょっと多くて17の店が来る予定。ダンジョンで出土したアイテムを取り扱う店が多いかな。最後に冒険者。こっちはカッパー以上もしくはBランク以上っていう冒険者ギルドの代表として選んでるから少なめで4つのパーティ。で、貴族や商人なんかは妻や子供を連れてるから単純計算で100人は超えてるかな。」

「……多過ぎません?」

「そうかな? これくらい普通だと思うけど? まあ、確かに冒険者や商人を呼ぶ理由は無いんだけど、それだと人数が少なかったからね。」


太守主催の夜会で参加者だったの30人というのは、確かに少な過ぎるけど……。

でも、貴族に呼ばれる経験のない俺にはその人数でもハードルが高いです。

帰りたいなぁ……。

とりあえず、アカネにべったりしてやり過ごそう。

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