第671話 次は別の訓練にしてください! 的なお話

護衛の訓練をすることになって、俺はその護衛対象役。

護衛はアカネだ。

それはいいんだけどさ、ボンクラ貴族って……それってどんなことをすればいいの?

とりあえず、馬鹿っぽい発言とかすればいいのかな?


「それじゃ、始め!」


アデラードさんが始めの合図をする。

襲撃のタイミングはアデラードさんが決めるから、まだサンドゴーレムは作られていない。

でも、すでに始まっているからアカネは周囲の警戒をしている。

いやらしいことにアデラードさんは訓練場に生えている木の裏側を巡るようにして移動する。

そこに核を隠してタイミングを計って一斉に起動するのだ。

その為に襲撃の前から警戒をする必要がある。

まあ、本来は今から襲撃しかけますよー。なんて言う馬鹿はいない。

魔物だって奇襲を仕掛けてくるんだ。

いつ来るかわからないのが普通。

そして俺はボンクラ貴族を頑張って演じる。


「なな、なんでアポーって言うのか、いい、意味がわからないんだなぁ。あ、アポーっていうのも、なんだか間抜けだし、べ別の名前がいいんだなぁ。たた、例えば、セイクリッド・シャリースとかにした方が、分かりやすいと、僕は思うんだなぁ。」

「ぶふっ! や、やめて……それどこの画伯よ……あははは!」


うむ。

やはりアカネならこのネタは通じるんだな。

まあ、これじゃボンクラ貴族じゃなくてポンコツ貴族だな。

あの人絵は凄いけど。


「あははは……はぁ。あー笑った。………………来た!」

「何!? お、お前! お前は高い金払って雇ってんだ! 何があっても僕を守れよ!」

「らしくなってきたわね。」


こんなんでいいのか?

こんなんでいいらしい。

イメージ的には……うん。

あんまりわかんないけど、多分自分は偉くて他の人は自分に傅くべき存在だと考えてるクソ貴族かな。


「いいか! お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ! それをお情けで雇ってやってんだ! 娼館に送ってもいいのをわざわざ雇ってんだ! それを借金の返済がしたいって言ったのはお前だぞ! だからお前は僕のために死ぬ気で戦う義務があるんだぞ! それが分かったならとっととあいつらをぶっ殺してこい!」


……言ってて凹む。

何このクズ。

アカネに言うのが辛いんだけど。

そんな俺の戯言を無視してアカネは周囲のサンドゴーレムを睥睨し、近づいてきた奴から魔法で倒したり、足止めしたりしている。


「おい! 何をちんたらしているんだ! さっさと倒せよ!」


本当もうやだー!

俺だったらこんな奴の護衛なん絶対にやりたくないよ!

そういう役でもこんなのやりたくない!


俺の葛藤をよそに、アカネは冷静に状況を見極めて対処していく。

サンドゴーレムを撃破し空いたスペースから方位を離脱し、俺を壁際まで誘導する。

怖いのは背後からの不意打ちだからな。

反転したアカネは背後からの不意打ちを警戒する必要がなくなったので、次々とサンドゴーレムを撃破していく。

そしてあっという間に制圧をし、俺を守りきった。


「うん。いいね。レントのアホな発言にも苛立たず、冷静に対処していたね。」


あ、アホって……分かっていても言われるのは悲しい。

というか、ボンクラ貴族って設定出したのアデラードさんじゃないか。


「ただ、ちょっと惜しいな。もう少しレントに声をかけてあげるべきじゃないかな。状況を説明し相手を安心させるのも時には必要なことだよ。」

「なるほど。分かりました。」


次は俺の番。

みんなの訓練とその際の注意点なんかを参考にして訓練を行った。

その結果1番いい結果を出すことには成功した。

それはいい。

護衛対象役がシアで高慢なお嬢様というのも金髪美人なシアにはぴったりだからそれもいい。

問題なのは、その時のシアの発言が俺の心をグッサグサと刺し貫いていくこと。

訓練だからと頑張って耐えたけど、俺の精神のライフポイントはほぼゼロだ。

もしももう一周することになれば、多分俺は耐えられない。

お願いです、アデラードさん!

次は別の訓練にしてください!

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