第670話 いいところ見せられるはず。的なお話

〜アカネ視点〜


「ああ、うん。そうなんだ。分かった分かった。彼は踏み出す時は右足からなんだね。分かった分かった。歯を磨くのは左手を使うんだよね。知ってる知ってる……ハハハ。」


やばい。

セフィア達がひたすらにレントの事を語り聞かせていたせいでお父さんが壊れかけている。

というかお父さん。

そっちを向いても誰もいないわよ?


「うんうん。そうなんだよね〜。左の肩甲骨の真ん中あたりにホクロがあるんだよね〜。知ってる〜。」


いや、本当に誰と話してるの!?

というか、そんな事までお父さんは知らなくていいよ!


「なぁ……流石にやばくないか?」

「うん。凄くやばい。」


レントが聞いてきたけど、間違いなくやばい状態。

だって見えない人と話しちゃってるもん!

あれエア友達だよね!?

エア友達なんか作って喋ってる人はどこか病んでる人ばっかりだもの!


「ね、ねえ、お母さん。この後どこか行く予定とかない? ほら、どっかの貴族がお茶会を開くとかダンスパーティーをするからその準備が必要とか!」

「無いわよ?」


くっ!

なんでこういう時に限って無いのよ!

普段やりたくもないし、そこまで親しくもないのに、周りに親しくしてますよアピールするために無駄に誘ってくるくせに!

成金趣味のブラントン男爵とかマジでうざかった!

そういうのがいるもんじゃないの、貴族って!


「あ、でも、パーティー用のアクセサリーとか見てみるのもいいわね。それにお茶会用のも。」

「そうね! それがいいと思うわ!」

「まあ、そもそもこんな状態のこの人を放って置けないしねぇ。」


分かってるなら普通に心配してあげなよ!


「ふふ……かわいいアカネの顔も見れたし、そろそろお暇しましょうか。」

「またからかわれた!?」

「じゃあまたね、アカネ。また遊びに行くからね。」

「出来ればからかいがないようにお願いします。」

「気が向いたらね。」

「絶対にお願いだからね!」


そうしてお母さんは未だ虚空に向かってブツブツと喋っているお父さんを引きずりながら帰っていった。

そしてふとレントがこっちを見ていることに気づく。


「何?」

「いや、そんなふうに興奮して話すの新鮮だなぁって。」

「う、うるさい! ほら、さっさと訓練場に行くわよ!」


うぅ……恥ずかしい。

お母さんめ〜。


「まだ私食べてるんだけど。」

「あ、ごめん。」


訓練はもう少し後になった。



「そこ、離れ過ぎ! 位置取りは即座に反応出来る距離!」

「はい!」


訓練を再開した。

今回はこの前の護衛で戦闘にならなかったけど、今後先頭に発展する可能性もあるから、護衛としての立ち回り方を学ぶという事でそれ用の訓練をしている。

1人が護衛対象、もう1人が護衛役としてアデラードさんが作るサンドゴーレムから護衛対象を守るというもの。

分かってはいたけど、本当に規格外な人だなぁ。


確かゴーレム生成って魔道具作成の分野だったはず。

核を作ってそれに魔力を込めて起動する事で周囲の物質を体として構成するって昔習ったけど、その核を作るのは他人では意味がない。

核を作成する際に術式の刻印と魔力の浸透を行う必要があるから。

それをふと思いついてからすぐに用意できるなんて、本当にすごすぎる。


「そこまで! ユウキはもう少し視野を広く持って。気配察知があるからって油断している証拠だよ。気配を隠すスキルを持っている敵もいるんだからちゃんと視覚でも周りを確認する事!」

「はい!」

「次! アカネ! 護衛対象役はレント!」

「は、はい!」

「はい!」

「レントは貴族のボンクラとして振る舞うように。」

「うっ……は、はい!」


さて、私の番だ。

気を引き締めていかないと。

でも、こういうのは経験があるから余裕とはいかないまでも、自身は割とある。

いいところ見せられるはず。

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