第658話 最悪、夜逃げかしらね。的なお話

〜アカネ視点〜


なんで、なんでお父さんとお母さんが!?

いや、確かにこの場所は前に出した手紙に書いてはいたけど……まさか来るなんて。

しかもあの馬車、見た事ないんですけど。

あんな新しい馬車、いつの間に買ったの!?


「私も居ますよ、アカネ。」

「アンリエット姉様まで!? ということはひょっとして……」

「あ、レジールなら居らんぞ。あやつには俺の代わりに仕事をしてもらってるからな。」

「お父様……。」


可哀想なレジール兄様。

普通当主が残るものでは?


「彼奴のことはどうでもいい。それよりもお前は本当に大丈夫か? どこも怪我とかないよな? 膜もちゃんとあるよな!?」

「「ブッ!」」

「あなた……女の子になんてこと聞いてるんですか?」

「ひっ!」


い、いきなり膜とか、下品すぎるわよ!

それはそれとして、やっぱりお父さんはお母さんには勝てないみたい。

どこの世界も母は強しって事ね。


「それでアカネ、そちらの方達を紹介してくださるかしら?」

「あ、はい。えっと、まずこちらの彼が私達のパーティリーダーをしているレントです。」

「初めまして。『紅玉の絆ルビーリンク』リーダーを務めているレントといいます。」

「そう。貴方が……。」


お母さんがレントを値踏みするように見ている。

うぅ……やっぱり手紙にレントのこと書いたのは間違いだったのかな。

いやでも書きたかったし……。


「それで、この子がセフィア。青髪の子がリリン。こっちのポニテの子がルリエで、エルフの子がアレクシア。魔族の子がエルナで、蜥蜴人族がレイダ、黒髪赤目のがユキノで、黒髪ツインテールの子がユウキよ。」

「そう……随分と女の子が多いのね。」


うっ!

やっぱりそこが気になるよね。

こうなってくると、レントは相応しくないとか、こんな女の子を侍らす人の所に娘は置いておけないとか、そういう事になっちゃうのかな?

それで、「レントが私のことを大切な仲間だから、絶対に連れて行かせない!」とか言っちゃったりするのかな?

もしそうなら、すごく嬉しい。

それでそれで、私は嬉しくてついレントに告白をして、そのまま受け入れてもらって……。


「アカネ……アカネ……。大丈夫、アカネ? 急にボーッとしてどうしたの?」

「ふぇっ!? い、いや大丈夫。うん。本当になんでもないから。」


やばいやばい。

なんか妄想の世界に飛び立っていたよ。

今の友達の関係をしばらく楽しむんだって決めてるし、落ち着くのよ、私。


「そ、それで、お父さん達はどうしてここに?」

「どうして、だと? そんなもの、決まっているだろう。お前を迎えに来たんだよ。さ、帰ろう。これまでは危険な目に合わせてしまったが、もう家のゴタゴタも片付いた。だから、家はもう何も心配ない。俺達と一緒に帰ろう。」

「嫌よ。」

「ぐっ! やはりか。やはりそこのおと……がはっ!」

「あなた……少し静かにしていましょうね。」


よ、容赦ない……。

お父さんがお母さんによって一撃で沈められてるわ。

というか、お母さんってこんなに強かったの?


「すみません、レントさん。ちょっと娘と2人っきりで話したいことがあるのですが、その間その人の事を見ていてもらってよろしいでしょうか?」

「え、ええ。分かりました。」


お母さんに意識を刈り取られたお父さんが崩れ落ちてる。

それを見るレントはドン引きしている。

まあ、それは仕方ないけど。


「さ、あっちに行きましょ。」

「あ、うん。」


落ちてるお父さんよりも、今はお母さんの話の方が大事。

一体なんの話をするつもりなんだろう?

やっぱり、レントと付き合うのはやめなさいとかいうのかな?

もしそうなら……最悪、夜逃げかしらね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る