第659話 気づいてくれたのが嬉しい。的なお話
〜アカネ視点〜
「まず最初に確認させてもらうね。この手紙に書いてあることは全部本当のこと? 誰かにこう書くように強制されたりしてないのよね?」
そう行ってお母さんは胸元から私が送った手紙を取り出した。
……どこにしまってるのよ。
せめて服のポケットにして欲しい。
「もちろんよ。私は今の生活が気に入ってる。」
「好きな人のことも?」
「う、うん。」
「そう……。」
次は何を言われるのだろうか……?
応援してる?
いや、それは無いか。
レントは貴族じゃないし、根無し草……いや、借り家はあったから根無し草では無いか。
冒険者だから下に見てる可能性は十分にある。
ユースティアの家ではそんなそぶりを見せる事はなかったけど、貴族の相手としては相応しくないと思ってても不思議ではない。
「それなら、頑張ってね。」
「はい? お、怒らないの? というか、止めないの?」
「止めて欲しいの?」
「そんなわけない! で、でも、身分差とか、相手すでに結婚してるし……だから、親としては嫌なのかなって……。」
「アカネ。何かあってから後悔しても遅いのよ。世の中には常に理不尽が潜んでいる。その理不尽は突然全てを奪い去っていくものよ。それは私達が良く分かっていることよね?」
確かに、お父さんは貴族として真面目に働いていたはずだった。
なのに、突然冤罪を被せられて私も一度は底辺に落ちた。
「世の中何があるか分からないからこそ、今を大事に、自分に正直に生きて欲しいのよ。その結果選んだ答えなら私はあなたを応援するわ。あなたはどうしたい?」
「私は……。」
私はどうしたいんだろう?
もちろん最終的にはレントと結婚して子供を作って幸せに暮らすことだけど、今はどうしたいんだろう?
今は学校のクラスメイトのような、遠いようで近い、そんな距離感がすごく心地いい。
私がそんな関係でしばらくいたいって思ったからそうなっているんだけど、どうしよう。
私が告白すれば、きっともう戻れない。
きっとレントは私のことを好意的に思ってる。
少なくとも嫌ってはいないだろう。
だから、告白して諦めずにアタックすればきっとその内折れてくれるだろう。
だから振られる事は怖くない。
問題なのは、今の関係を失うのが惜しいと思っていることよね。
色々と楽しいからねー。
日本の話をしたり、ライトノベルについて意見をぶつけ合ったり、芸人で誰が好きだったかとか話したり、トランプをして遊んだり、なんてことない雑談をしたり…………あれ?
それ、セフィア達もやってなかったっけ?
よくよく考えてみれば、セフィア達はいつもイチャついているわけじゃない。
もちろん、え、エッチな事とかもしてるんだろうけど、それ以外には普通に楽しく過ごしている気がする。
うん。
そう考えたらためらう必要がない気がしてきた。
「私はレントと付き合いたい。そして結婚したい。」
「そう。それなら私はあなたを応援するわ。」
「ありがとう、お母様。」
嬉しくてつい抱きついてしまった。
そういえば、せっかく再会したのにまだ触れ合っていなかった。
だから今は少しでもお母さんのぬくもりを感じれるようにしっかりと、強く抱きしめる。
「あらあら。」
「お母さん。また会えて嬉しいよ。」
「またお母さんと呼んでくれたわね。」
「あ……。」
「ふふっ。いいのよ。今は周りに人はいないもの。気にしないでお母さんと呼んでいいのよ。」
「うん。お母さん。」
しばらく抱きついた後、みんなの元へと戻る。
「あれ、なんかスッキリした顔しているな。」
「まあね。」
レントがこんなことを言ってくれる。
多分色々と吹っ切れたからそれが顔に出ていたんだろうけど、気づいてくれたのが嬉しい。
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