第587話 凄く辛かった…。的なお話

ギルドの訓練場の隅っこの方でストレージから果実水をチビチビと飲む。

遅れながらに自分が死にかけたことを理解すると、辛いものがある。

一度死んでる身だからこそだろう。

まだちょって手が震えてる。


手の震えが収まるのを待ちながらみんなの様子を眺める。

セフィア達は頑張っているようだけど上手くいってないようで、なんの変化も見受けられない。

一方でアデラードさんの実演を見にこなかったシアとルナの2人は変化がある。

2人の周囲がぼんやりとだけど景色が歪んでいるように見える。

早くも変化があるなんてすごいな。

とりあえず手の震えが収まったら2人にコツとかを聞いてみよう。


果実水をチビチビと。

そこでふと思う。

スポーツドリンクが飲みたいなぁ。

確かあれって佐藤敏夫……じゃなくて、砂糖と塩を使ってるんだよな。

ちょっと、作ってみようかな?

少し前に習得した水魔法で水を出して、そこに塩、砂糖を投入。

砂糖はこの世界観だと高級品というイメージがあるが、この世界にはシュガートレントとかいう魔物がいるらしく、砂糖は意外と手の届くお値段。

まあ、日本で買うよりは高いが、それでも一般市民でも手が届くお値段。

ありがたいね。


うーむ。

ちょい塩が多い?

それにスポーツドリンクには微妙に酸味もあったな。

水と砂糖を追加投入。

あとは酸味……まあ、適当に果物の汁でも入れるか。

何もスポーツドリンクの味を再現する必要はないし、全部が同じ味じゃないからな。

美味しく飲めればいいのだ。


そんな感じで試行錯誤をしてるうちに結構な量に。

でも、こっちに集中してたおかげで手の震えも収まった。

丁度いいしみんなにあげよう。


「あ、レント。途中から何かやってたよね? 大丈夫ならさっさと訓練に戻って欲しいんだけど?」

「あー、まあ、大丈夫というか、やったから大丈夫になったというか……、えっと、やりたいことやってたらその辺の事を忘れられたので大丈夫になったって感じです。」

「え、あ、うん。そうなんだ…?」


なんかイマイチわかってないって感じの反応だ。

まあ、それはどうでもいい。

重要なのはこっち。


「で、さっき作ってたのがこれです。氷入れて冷やすとなお美味しですよ。」

「あ、ありがとう。」

「みんなもいる? あ、あと蒼井は氷作ってくれ。」


みんなに聞いてみると物珍しさからか、全員飲んでみたいとのこと。

蒼井が作った氷を入れて飲んでみると、みんな一様に美味しいと絶賛だ。

ただの塩と砂糖、それと果汁だと考えると安っぽいが、地球の日本ではこの手のドリンクはロングセラーを樹立してる。

そう考えれば納得できるから不思議だよなぁ。


「懐かしいわね。ちょっと違うけど、でも思い出しちゃった。あの青いラベルのポ◯リをまた飲みたくなっちゃった。」

「蒼井はポ◯リ派なのか。」

「あんたは?」

「どっちも好きだけど、家はア◯エリアス派だな。」

「あー、そういえば飲んでたわね。家にもよく置いてあったし。」

「は? なんでそんなこと知ってんだ?」

「だって、唯ちゃんと遊ぶ時にあんたん家行ったこと何度もあるし。」

「マジでか……。ところで、アカネはどっちだ?」

「私はダ◯ラよ。というより、周りはみんなダ◯ラばっかりだったわ。」

「は? ダ◯ラ? え、2大派閥じゃないの?」

「そういえば……部活にダ◯ラ持って行くってやつもクラスにいたな。」

「そうなの!?」

「てっきり少数派かと思ったんだが……侮れんな、ダ◯ラ。」

「3人はなんの話ししてるの?」


俺と蒼井、そしてアカネの日本勢がスポーツドリンク談義してるとアデラードさんが興味津々といった感じで聞いてきた。


「白い粉の話。」

「え……? ま、まさか、これに入ってるの…?」


白い粉。

それは麻薬を表してる………訳ではなく、そう思わせて実はポ◯リというネタで使われたりする表現。

しかし当然のようにアデラードさんには通じなかったようで。


「みんな、飲んじゃダメだよ!」

「「「え?」」」


慌てたアデラードさんはみんなに飲むのをやめるように叫ぶ。

それを見た俺と蒼井、アカネは慌てて誤解を解く。

確かに白い粉は使ってるけどそれはただの砂糖と塩で怪しい物なんかじゃない。

その事を実演を交えて説明してようやく納得してもらえた。

しかし、悪ふざけの代償は高くつき、俺は誤解させるような事を言った罰としてみっちりとマンツーマンで訓練をする羽目に……。

もちろん、そんなすぐに出来るようになるわけもなく、失敗続きを間近で見られるというある種の拷問のような時間を過ごすことに。

凄く辛かった…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る