第588話 あまり縁がないみたいだ。的なお話

訓練を終えて宿に帰る傍、シアとルナにコツとかを聞く。

正直いってあの上達速度は異常です。

この世界の魔法は細かなルールとかを守らないと発動しない魔術という感じではなく、イメージが重要な魔法。

そのイメージにおいて漫画アニメという多大なアドバンテージがある日本人である俺、アカネ、蒼井ですらまだ上達の足掛かりを掴めてないのだから。


「別にコツを掴んだとかそう言うのじゃないわよ。ただ単に父が昔やってて、それを練習してた事があったってだけ。その時はまだ小さかったから全然だったわね。でもその時の下地とこれまでの訓練で多少はマシになったってだけよ。」

「わ、私は、普段から身に纏う魔法を使ってて、それで、自分を魔力で覆うのは、割と得意で、後は魔力の密度を上げたら、ああなったの。」

「ただ、練習するなら普通の魔法を圧縮する練習の方がいいと思うわ。やりやすいって訳じゃないけど、結果は分かりやすいから最初はそれで魔力の密度を上げる練習をした方がいいと思う。」

「なるほど。」


確かに、見えなくて苦労するなら見えるようにすればいいわけだ。

明日はそれでいいかアデラードさんに確認して、許可をもらえればそれでやろう。


「注意すべきことは、属性によってはうまく圧縮できそうにないことかしら。水や土は実体がある分難しそうね。光や闇が1番安全そうね。」

「俺、どっちも持ってねぇよ。」

「ま、まあ、火でもやりやすいと思うから……暴発すると危険だけど……。」

「………俺、地道にやるわ。」

「そう……。」


だって、暴発させて丸焼きになる未来しか見えないもの。


宿に到着するとお客の相手をしていたレイちゃんがこっちに気づいて笑顔で挨拶をしてくる。


「お帰りなさーい。ご飯にしますか? それとも先にお風呂ですか?」

「魔法だけだったからご飯でいいかな。いいよな?」

「うん。僕もうお腹ペコペコだよ。」

「ん。お腹すいた。」


みんなもご飯でいいということなので早速空いてるテーブルを……


「あれ〜、なんでそいつらだけ聞くんだ〜? 差別じゃねぇ〜の〜?」

「ごめんなさい、ガイルさん。この人達は何ヶ月も泊まってくれてるお得意様なの。」

「ほぉ〜ん。………ま、今回はそういうことにしといてやるか〜。でもな、もしもレイランちゃんに手を出そうってんなら……俺たちが黙っちゃいねぇかんな〜。なんせ、俺たちゃレイランちゃんがこ〜〜〜んな、ちっせぇ頃から知ってからよ。いわば、娘みたいなもんなんでなぁ。だから手を出したらただじゃおかねぇからな。分かったか〜にいちゃん?」

「え、ええ。分かりました。」


その言葉に満足したのかガイルとかいう酔っ払いが自分のテーブルに戻っていった。


「ごめんなさい。ガイルさん、悪い人じゃないんですけど……10年以上前からの常連さんで、よく可愛がってもらってたせいか、どうにも過保護で…。」

「あー、まあ、嫌われるよりかはいいんじゃないかな?」

「そうなんですけどね……あ、お夕飯ですよね? あっちのテーブルが空いてるのであそこにどうぞ。」

「ありがと、レイちゃん。」


あんな感じの人に絡まれたの初めてだわ。

珍しい経験したもんだわ。

普段はさっきみたいに聞かれたりしてないから気にならなかったんだろうが、今回はたまたま顔を合わせてそのまま聞かれたっていうのが重なった結果かな。

とはいえ、手を出すつもりなんてないから気にする必要はないし、寧ろああいうのがいるってのは、それだけここが周りに受け入れられたいい場所の証明でもあるからな。

名前はアレなんで宿っぽくないけど。


そして夕食を食べ終わり部屋でのんびりと休んでいると、ふと思い出す。


「そういえば、フラグを立てたけど、全く意味なかったな。」

「……あ! そういえばそうだね。」


てっきりナタリアさん達と何処かで会うと思ったんだけどな……やっぱりそういうのはゲームや物語の中だけか。

ちょっと期待してたんだけど、俺はそういうのとはあまり縁がないみたいだ。


看板娘を娘のように思ってる常連の酔っ払いはいたけど、これは地球にもいるだろうからノーカンで。

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