第581話 みんなへの説明が先か。的なお話

みなさま、おはようございます。

現在は午前2時。

いわゆる丑三つ時という時間です。

そんな時間に俺はハーハーと息を荒げ尻尾を逆だたせている人に襲われています。

字だけで見ると日本ならちょっとしたホラーとなる状態です。


「れ、レントさん…。私、もう……。」


俺を襲っているのはギルドで受付嬢をしている犬耳犬尻尾のリナさん。

頬は紅潮し、瞳はトロンとしており、その瞳には殺意ではなく、何やら妙な熱が宿っているように見受けられます。

そして格好ですが、服は無残にも脱ぎ捨てられ、下着のみとなっております。

その下着はレースなどがふんだんに使われており、ここにも日本人の魔の手が及んでいると思わされる光景です。

そんなリナさんは現在、私めに馬乗りをしている状態となっております。

なぜこのような説明口調かは、私自身理解できていないため、客観的に見ている状況だからです。


「私、不安なんです……レントさんはギルドマスターとすごく仲が良くて、でも、私とは全然そんなことなくて……指名依頼から帰ってきても私には何も無くて、今回のパーティーもギルドマスターに誘われなければ、私は知ることもなかった! 私は! もっともっとレントさんと一緒にいたい! もっと楽しくお喋りとか、遊んだり、デートとかしたいのに! なのに、レントさんはいつもいつもギルドマスターとは一緒にご飯を食べたり、お酒を楽しく飲んだりして! レントさんの宿に泊まることがあっても私には目もくれないで! 私は……私はレントさんにとってなんなんですか!? ただの受付で全く異性として意識してないんですか!? だったらはっきりと拒絶してくださいよ! 意識してるなら……私を襲ってくださいよ! 以前誘われた時、もしかしてって期待してたんですよ? なのに、そんな事はなくて……私、もう、どうしていいか、分からないんです……。」

「リナさん…。」

「だから、決めたんです。レントさんがその気にならないなら、いっそのこと、私から襲おうって。」


そこまで、思いつめてたなんて……

でも、なぜそこで襲うということに!?

これからアタックするみたいなこと言ってませんでしたっけ!?

それからあんまり時間経ってませんよね!?


「もしも拒絶するなら突き飛ばしてくれて構いません! 淫売だと罵ってもらって結構です! でも、もし少しでも、私を異性として意識してるなら………私を、受け入れて、ください…。」


ここまでされて突き飛ばすなんて、突き放すなんて、俺には出来ないよ…。

俺の考えとか、倫理観とか、そんなのすっ飛ばして受け入れようと考えるくらいには、リナさんには好感を持っている。

別にいいじゃないか。

これから好意を抱いて、愛し合うようになる関係があっても。

貴族同士の結婚なんて大体そんなもんって話だし、アデラードさんに至っては冗談から始まった婚約者関係だ。

それに比べたら全然マシだ。

だから、まずは辛そうな顔をしているリナさんを抱きしめよう。


「ごめん、リナさん。そんなに思いつめてるなんて知らなくて……。俺が煮え切らないせいで辛い思いをさせてごめん。でも、これからは、ちゃんと恋人として向き合うから。」

「それって……。」

「うん。これからよろしくね、リナさん。」

「うっ……ふぇっ……ふぇーーん! 良かったよーー! 本当に、良かったよーー! 諦めなくて、本当に、よかった……。」


泣きじゃくるリナさんをずっと抱きしめていると、いつの間にか嗚咽もなくなり、安らかな寝息を立てていた。


「おやすみ、リナさん。」


リナさんを布団の中に入れて、一緒に寝ることにする。

せっかく頑張ってくれたんだから、これくらいね。

ここで部屋に帰そうものなら、夢だと勘違いさせるかもしれないし。



朝となり、目を覚ますと目の前にリナさんの大きな瞳があった。


「あわわわわ、れ、レレレレントさん! 昨晩はすみませんでした!」


飛び起きたリナさんは即座にベッドの上で土下座を敢行する。

うん。

ベッドの上で土下座って、なんか違和感あるな。


「き、昨日は、お酒に酔っちゃって、それで、それまでの不安とか不満とかがごちゃ混ぜになって、つい暴走しちゃったというか、その、本当にすみません!」

「あー、あんまり気にしないでいいから。とりあえず、これからもよろしくね。」


恋人がまた1人増えたわけだが、流石にこれ以上増えたりしないよね?

だけどま、まずはみんなへの説明が先か。

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