第477話 大変なんだな。的なお話

バイトを始めてから1週間が経った。

そう、1週間だ。

その1週間で俺はついに割り振られた仕事を終わらせたのだ。


「終わったーー!」

「お疲れー。」


時刻は夜7時。

あと少しだったからついいつもより遅くまでやってしまった。

そろそろ帰らないと。

みんなが心配してるだろうし。


「助かったぜ、レント。それでなんだが……」


まさか……


「悪いんだが、追加でこれも頼む。」


まじか〜。

手渡された注文表を見る。

今度のお仕事は剣だ。

片手用直剣×10だ。

また1週間くらいやらないとダメだなこりゃ。

立案者とはいえ、ここまでのことになるなんて……やるんじゃなかった。

アデラードさんがそのうち乗り込んできたりするかも。

ろくに剣を握ってないーって。


「えと、今日はもう遅いですし、これで帰らせてもらいますね。」

「すまんな。報酬には色つけとくからよ、もう少し頑張ってくれ。」


宿に帰ってまた仕事が増えたことをみんなに伝える。


「そうなの? 大丈夫?」

「あー、うん。そっちは問題ないんだけど………アデラードさんがね。2週間も、剣じゃなくて槌を振ることになるわけだから、文句とか言ってくるかもって。」

「確かにありそう……分かった。今度言っておくね。」

「悪いな。」

「それで、その間もお弁当は必要?」

「絶対に必要!!!」

「あ、うん。分かったよ。」


愛妻弁当が無いなんて考えられない。

つい語気が強くなってしまったけど、これは仕方ないことだ。



それから更に4日。

トンテンカンとひたすらに槌を振るってお昼に愛妻弁当を食べて夕方ごろに宿に帰るという日常を送っていた。

こうなってくると俺は冒険者だ! って胸を張って言えなくなってくるよ。

俺、本当に冒険者だよね?

鍛治師じゃないよね?


しかし、この自分の職業が分からなくなってきていた日々だったが4日目の今日はそのいつもとは違っていた。


「すみませーん。ギルドでオススメされたんですけど。」


この声は……

どっかで聞いたことある声なんだけど。

具体的にはセフィアの故郷のエルカで。


「なんでここにいるんだよ……。」

「げっ! あ、あんたは……なんでこんなところに、というか、なんでそっちから出てくるのよ!」


そのツッコミは当然だよね。


「今ここでバイトしてるからだけど? そういうお前らはなんでここに?」

「そんなの、セフィアちゃんを追いかけてきたに決まってるじゃない。大体、やっとイリスの怪我が治ってカインに向かったのに、言ってみれば既にいないっていうし……いろんなところで聞き込みしてみれば迷宮都市に向かったっていうじゃない。少しはジッとしてなさいよ!」

「んな理不尽な……。」


冒険者に1つどころに留まれって無茶がないか?


「えーと、この嬢ちゃん達はレントの知り合いって事でいいか?」

「あ、はい。セフィアの追っかけです。」

「追っかけ!? セフィアってのはお前の嫁さんだろ? 女同士で追っかけって……」


うん。

気持ちはよーく分かる。


「セフィアって超かわいいでしょ。」

「まあ、そうだな。」

「それを鼻にかけないし優しいし、それでいて一人称が僕っていうギャップから人気があったらしいんですよ。ちなみに親衛隊の総隊長はセフィアのお父さんです。」

「はぁ!? ちょ、ちょっと待ってくれ。つまりは、何か? あの嬢ちゃんにはファンがいて、それを組織してんのが、父親だってんのか?」

「ええ、まあ。この前に行った時に発覚しました。ちなみにここにいる3人もその親衛隊の一員でこっちのユーリが隊長をしています。」

「おめぇも、大変なんだな。」

「はい。」

「ちょっ、何よその言い方!」

「うるさい。……で、お前は何しに……って武具店に来る理由なんて決まってるか。」

「そうね。現状ので満足してるけど、ダンジョンの中じゃ何があるか分からないから予備が欲しいのよ。それにこの街ならいい武器もあるかもだからね。というわけで、何かオススメとかない?」

「えーと、ユーリが二刀流でレヴィが棍棒だっけ?」

「あ、今は片手斧の二刀流もやってるわよ。」


なんでまたそんなゴツい選択を?


「で、そっちのは……えーと、決闘の時にいた、よね? 悪いんだけど、何を使ってたっけ?」

「あ、えと、イリスって言います。それで、その、あの時は助けてくれてありがとうございました!」

「へ?」


助けた?

俺がこの子を?

全く記憶にないんだけど?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る