第476話 バイトですけど。的なお話

今日も鍛治です。

しかし、今日は昨日以上にモチベーションが高い。

何故なら、今日から嫁達が作った愛妻弁当を持参しているからだ。

さっき宿で朝食を食べたばっかりなのに、もう楽しみだよ。


「おはようございまーす!」

「おう、よく来てくれたな。今日もよろしくな。」


挨拶をしてから自分の作業場所へと移動する。

うん。

いつの間にか作業場が出来ているけど、気にしたら負けだ。

作業机の隅っこには律儀にレントって彫ってあるけど、気にしたら負けだ。

まずは昨日の続きからかな。


それから俺は多分真面目に作業をした。

時折時間を確認してたけど、多分真面目にやってたと思う。

ス◯フェス中にライフとかスコアとかをチラッと確認するような感じだ。

そういうことにしておこう。

十数分に一回の頻度で確認してたけど、真面目にやってたよ。

そういえば、この世界に来てしまったから全然出来てないな。

もう一年経つしきっと色々イベントがあったんだろうな。

それが出来ないのは寂しい。

………こんな形で郷愁を覚えるなんてな。

もうちょい他にもあるだろ、普通。

両親とか、祖父母とか、妹とか、友人とかさ。

あ、な◯はの映画ってどうなったんだ?

やるって話はあったけど全然音沙汰なかったし……


そんなことを考えながら作業して、漸くお昼となった。

お昼がこんなに待ち遠しかったのは久しぶりだ。

食堂へと移動して早速お弁当を広げる。

きょ〜のおっひるはなんだっろな〜♪


お弁当の中身は食べやすいように配慮したのか、チキンステーキのサンドウィッチと温野菜のサラダにデザートのカットフルーツ。

飲み物は淹れたての紅茶だ。

ストレージは中に入れたものの時間を止めることができるからの選択だろうな。

じゃなきゃ温野菜のサラダとか傷むだろうし、紅茶も冷めてしまう。


「なんだ〜、愛妻弁当ってか?」

「まあ、そうです。」

「羨ましいな〜、こんちくしょうめ。」

「それならトニーさんも作って貰えばいいじゃないですか?」

「うぇっ!? い、いや、でもよう……まだプロポーズもしてないのに、それは流石にどうかと思うじゃねぇかよ。」

「えぇっ!? まだしてなかったんですか!?」

「わ、悪いかよ!?」

「悪いとは言いませんけど、言いそびれれば言いそびれたぶんだけ覚悟が鈍るだけだと思いますよ。」

「ぐっ! そ、それはそうだけど……でもタイミングが……」

「そんなのはいつだっていいんですよ。別にデートした時じゃないとプロポーズしてはいけないなんて決まりなんてないんですから。」

「そうかな?」

「そうですよ。というわけで、今日プロポーズしましょう。」

「今日!?」

「はい。明日結果を楽しみにしてますね。」

「マジかよ……」


まさかまだしてなかったなんて。

でも、流石にもうするだろう。

これでしなかったらヘタレのトニーさんと呼んであげよう。


お昼も食べ終えたので作業に戻ろう。

そう考えた時に、聞き覚えの声がした。


「こんにちはー。注文にきたっす。」


アイリスさんだ。

注文って革製品に使う金属パーツとかかな?

ちょっと挨拶に行こう。


「こんにちは、アイリスさん。」

「れ、レントさん!? なんでこんなところにいるっすか!?」

「え、バイトですけど。」


臨時で雇われてるしバイトだよね。


「それでアイリスさんは注文って言ってましたけど、何か足りないものでも?」

「あ、そうだったっす。グラハムさん。まずはいつもの裁縫用の針を20本と、装飾用の鋲を500個。それと裁断用の鋏を3本下さいっす。」

「おう。」

「後、これを見て欲しいっす。」


そう言って取り出したのは設計図のようなもの。

どうも皮の防具のようだ。


「こことここ、あとここの所に金属で補強したいんっすよ。だからそのパーツを作ってくださいっす。」

「数はいくつだ?」

「防具の発注数が全部で27っすから、予備で5つ程欲しいっすからそれぞれ32個ずつで。」

「分かった。つっても、ウチも今忙しくてな。結構時間がかかるが、それでもいいか?」

「大丈夫っす。ウチもたくさん注文があるっすから、3週間後までに用意してくれればいいっす。」

「了解。出来上がったら持っていけばいいか?」

「それでお願いするっす。」


商談が済んだようなので、声をかける。

といってもお互い忙しいので一言二言交わすだけだが。

そして帰っていったアイリスさんを見送ってから俺も作業に戻った。

本当は俺が作ってあげたかったんだが、まだ作業が残ってるので他の人に任せるしかない。

それよりも自分の作業に集中しよう。


作業は夕方6時まで続けた。

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