第426話 絡めない的なお話

アイリスさんのお店の前にいる。

ちょっと緊張するな。

落ち着け、俺。

三数えたら入るぞ。

一、二…………


ーガラッ


うわっ!

びっくりしたー。

入ろうと思ったら突然人が出てくるなんて。

ビクってしちゃったじゃないか。


「あ、レントさん! 今日はどうしたんっすか? もしかして、私に会いに来てくれたんすか?」


あ、戻ってないや。

さっきの人を見送ってたんだろうけど、ドアの前にいたアイリスさんが挨拶してきたのはいい。

それは普通だ。

でも、会いにって時点でもうダメだろ。

これ、完全にロックオンされてるわ。

もう、いいや。

好かれてるってことでいいや。

でも、俺が好きになるかどうかは別物だ。

いや、漫画だとこういうキャラも結構好きだったけど異性として好きというのは別だ。

心を持ってかれなきゃ問題はない。


「いえ、今日も仕事のお願いがありまして。」

「そう……すか。それで、何をお求めで?」

「馬具ですね。グルーム種用の乗馬に使う奴です。」

「ぐ、グルーム種っすか……それはまた、なんとも……」

「初心者には不向きらしいですからね。でも持ってる馬はそれしかないんで。」

「グルーム種なら馬車っすよね? なんでそのまま乗ろうと思ったんすか? 乗るだけなら馬屋で借りるなりすればいいと思うんすけど。」

「でもそれだとお金かかりますよね? だったら別に借りる必要ないかな〜って。後、最初に乗りたいって言ったのはシアなんですよ。俺はその時に教わろうとしただけなんで。」

「ふ〜ん。そっすか。えーと、それでその馬は何処に……」

「いや、流石に連れ歩くのは周りに迷惑になりそうなんで連れてきてないんですけど……。」

「なるほど……分かりました。じゃあ、サイズを測りたいんで、馬の場所まで案内してくださいっす。」

「普通に既製品のでいいんですけど?」

「駄目っすよ! そんなのじゃ馬に合わなかったら負担になるじゃないっすか。それは駄目っす!(それに既製品じゃ全然レントさんと絡めないじゃないっすか。)」

「確かに……俺も乗馬なんて初めてだし、ただでさえ負担になるのに馬具まで負担をかけるのはあまり良くないよな。」


アイリスさんの言うことももっともなので宿の厩舎に案内する。

宿の場所を教えるのはちょっと不安だけど、流石に押しかけてくるなんていう良識のない人じゃないと思うし、大丈夫だよね。


「はぁーー。立派な馬っすね〜。流石はグルーム種っす。でも、ちょっとストレスが溜まってるみたいっす。ちゃんと外に出して走らせてるっすか?」

「あ、やってないかも……」

「駄目じゃないっすか。道具ですらメンテナンスが必要なんすから、生き物はもっと大事にしないと。でも毛並みは良いみたいっすからブラッシングはちゃんとしてるみたいっすね。」


そう言いながらマロンに近づき撫でるアイリスさん。

なんか、手馴れてるな。


「手馴れてますね。」

「馬具を作ってくれっていうのは時々あるっすから自然とっすね。あ、そういえばレントさんは鍛治と細工が出来るんすよね?」

「え、出来ますけど……俺、出来るって言いましたっけ?」

「グラハムさんに聞いたっす。裁断用のハサミを修理してもらう時に教えてもらったんすよ。それでなんっすけど、鎧とか金属パーツはレントさんが作ってくれませんすか? 今ちょっと手持ちがなくて……もしもレントさんが作るんなら手間賃が掛からない分、少しだけ安くなるんすけど。」

「う〜ん。作ったことないんでそれはちょっと……素材代が高くついて結果的に普通に発注するよりも高くなると思いますから、やめておきます。」

「そっすか。良い案だと思ったんすけど……(レントさんとの初めての共同作業がぁ〜。)そんじゃ、そくていにはいりますね。」


そう言うと馬達のサイズを測りだすアイリスさん。

そうしてれば真面目に見えるんだけどなぁ。

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