第427話 頑張ってね、アイリスさん。的なお話

マロンの各部のサイズを測り終えたアイリスさんはそのままアルバの方を測る。

その表情は真剣そのものでかっこいい女職人という感じで魅力的だ。

だからこそ思う。

暴走しなければな〜。

本当にもったいない。

いや、別に狙ってるとかじゃないけど、魅力が減衰しているのはもったいない。


「あの、そんなにジロジロ見られると、ちょっと恥ずかしいんすけど……。」

「あ、ごめん。その、真剣な表情がかっこよかったんで、つい。」

「そ、そんな褒めないでくださいっすよ。褒められても、身体しか出せないっすよ。」

「凄いもん出てきた!?」

「レントさんと恋人になりたいっすからね。出来ることはなんでもするっすよ!」


そう言うアイリスさんの顔は赤く染まってる。

照れるのなら言わなきゃ良いのに。


「それに、こう言えば絶対レントさんは私を意識するっす! 嫁と恋人が5人いる時点で女好きなのは明らかっすから、ガンガン攻めていくっすよ!」


作戦をバラすのはどうだろうか?

でも、その攻め方は間違いだ。

俺は誰でも良いわけじゃないし身体目的で付き合うつもりなんかない。

付き合うのなら最後まで。

死ぬまで添い遂げたいんで。

なので、そういう尻軽アピールは逆効果です。


「あ、そういうのは間に合ってるんで。新婚生活に不満はないですし。」

「なんかちょっと冷めてる!?」


そんなに驚くようなことだろうか?


「それよりも、測り終わりました? 終わったんなら、ちょっとアルバ達を外に散歩させに行きたいんですけど。」

「え、あ、お、終わってるっす……けど……」

「じゃ、お店の方に戻りましょうか。引換書もありますし。」

「そ、そっすね……」

「うーん……よし。ねぇ、レント。お店の方は僕が行くからレントはアルバ達を散歩させてきていいよ。あ、シアちゃんも手伝ってあげて。」

「いや、そんなに時間かからないし一緒に行くよ?」

「それにほら、アイリスさんのケアもしないとだし、ね?」

「あ、ああ。そうだな。」


突然耳元で囁くように言ってきたセフィア。

その甘く甘美な調べは頭を蕩けさせるような、そんな響きだった。

出会って、付き合うようになってから1年は経つのに、まだその魅力の全てを知らなかったようだ。

セフィア………恐るべし。


セフィアに促されるままに俺はシアと一緒にアルバ達の散歩をさせに行く。

よっぽど嬉しいのかアルバ達は首を擦り付けてくる。

申し訳ないことしちゃったな。

これからは時々散歩させるか。


〜セフィア視点〜


「さて。じゃあ、行こっか?」

「すすす、すみませんっしたー!! 奥さんの前であんなはしたない真似、本当に申し訳ないっす! 謝って許される事じゃないとは思うっすけど、本当に申し訳ないっす!!」

「ええーーー!?」


なんで、いきなり土下座してるの!?

僕別に怒ってなんかないよ!?

なんでそんなふうに思ってるの!?

ちょっと待って!

落ち着いて、僕。

もっと冷静に考えて……アイリスさんの立場になって考えよう。

アイリスさんはレントにはしたなくアプローチした。

で、そのレントのお嫁さんである僕はまだお嫁さんじゃないシアちゃんと一緒に外に行かせた。

それでこの場に残ってるのはレントのお嫁さんの僕とリリンだけ。

つまり………女同士で決着をつけようとしてるように見える!?

そんなつもりないのに!


「顔をあげて。僕たち別に怒ってなんかいないから。」

「で、でも……」

「リリンも怒ってないよね?」

「ううん。怒ってる。」

「え?」

「やっぱりー!」

「レントはああいうのは嫌い。迫るならもっと誠実に行かないとダメ。」

「へ?」

「あ、怒ってるってそっち?」


まあ、確かにレントはああいうのはあんまり好きじゃないよね。

リリンが迫っても受け入られてるのはお互いに好きだからで身体で釣ろうというのはそういう関係じゃない内は逆効果なんだよね。

レント、真面目だから。


「うん。そうだね。アイリスさんだったら、ああいう迫り方じゃなくて、真面目に仕事してる所を見せる方がいいと思うよ。」

「え? 本当に、怒ってないんすか?」

「うん。これは前から言ってることなんだけどね。ただ、出会う順番が早いか遅いかだけで諦めなきゃいけないなんてすごく悲しいじゃない。チャンスは平等にあるべきだって。だからレントにはお嫁さんが複数出来てもいいって言ってあるんだ。もちろん、僕達を愛してくれるのが条件だけどね。」

「ん。優秀な雄には自然と異性が集まる。それは自然の摂理。」

「雄って……な、生々しいっすね。」

「あ、でもレントは真面目だから僕達に遠慮して自分から動くことはない。そういう関係になりたかったらレントを惚れさせないといけないんだ。でも、レントを好きにさせたらちゃんと応えてくれるよ。だからさ、もしも本当にレントのことが好きなら諦めないでね。」

「は、はいっす! 絶対に、レントさんを私の事を好きにさせてみせるっす!」

「ん。その意気。」


頑張ってね、アイリスさん。

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