番外編 織姫彦星決定戦 後編

「続いて第2問! 4+6×8-8÷2の答えは? 1、36。2、46。3、48。4、58。さー、どれでしょう?」


これまた簡単な問題だな。

掛け算と割り算は優先して計算するから48か。

これで合ってるよな?

なんか、急に不安になってきた。

クイズ番組だと問題が画面に出るから分かるけど、実際に参加する側だと言葉だけだから記憶違いしてたら絶対に答えにたどり着けない。

簡単だと思ってたけど、なんて恐ろしい問題なんだ……


「答えはーー……………………………3番の48だーー!! おーーっと、またまたたくさんの脱落者が現れ、なんと残ったのはたったの3人だーーー!!」


減りすぎだろ。

まだ2問しかやってないのに既に最初の20分の1なんだけど。


「流石にこれは予想外の展開で、司会としても困惑を禁じ得ない。とりあえず、時間稼ぎのために残った3人に自己紹介でもしてもらいましょう。まずはそこのメガネの人、どうぞ。」

「えーと、僕はクリスハイト・ホーキンスです。ここの太守をしているギリアム・ホーキンスの息子です。」

「おやおや貴族様でしたか。言われてみれば確かに気品がありますねー。では次の人ー。」


物言いが軽くて気品があるような感じじゃないんだけど。


「私はエルム商会の会計をしていますロイドと言います。」

「エルム商会? 何処だっけ? まあ、別にいっか。それじゃ次ねー。」


酷いな。

分からないからって、もう少し言い方を考えようよ。


「えーと、俺はレントって言います。一応冒険者やってます。」

「このレント君は私のはとこの恋人でなんと、更に3人の奥さんと1人の恋人がいるんだ。凄いよね。いよっ、色男。しかも若干16歳で既にBランク冒険者という将来有望株。当ギルド期待の新人だよ。受付嬢にも密かな人気があったりします。」

「ちょっ!? 俺の個人情報だだ漏れじゃないっすか! しかも最後のは余計な恨みとか集めるじゃん!」

「まーまー。時間余ってるし別にいいじゃん。」

「よくないですよ〜……。」

「じゃ、自己紹介も済んだところで次の問題にいっちゃおー!」


俺のは自己紹介よりも他己紹介の方が長かったんだけど、あれを自己紹介にしていいのか?


「第3問! 商品の搬入時間が迫っている為に、猛スピードで崖道を進む商人の馬車が急カーブを通りました。しかし何かを落とさなければ間に合わない。さて、何を落としたのでしょうか?」


なぞなぞかよ。

問題の傾向がまるで分からん。


「制限時間は1分。早い者勝ちじゃないからゆっくり考えてねー。あ、でも間違えたら脱落だから。それじゃシンキングタイムスタート!」


スピードだよな。

有名だし。


「1分経ったね。じゃ、答えいくねー。答えはスピード。速度でも可。そして正解者はー……2人。クリスハイト君とレント君。ロイド君、小間使いって極悪すぎでしょ。」


アデラードさんのその意見には同意だな。

エルム商会、大丈夫かな?

今後が心配だよ。


「じゃ、最後だね。次で勝った方が彦星だよ。私の好きなお酒の銘柄はなんでしょう?」


知るかーーーーーーーー!!!!

なんで最後にそんな個人的な問題なの!?


「龍帝!」

「正解!」



クリスハイトととやらは知ってたようで即答してたよ。

なんか、太守の息子が彦星ってなると八百長を疑ってしまうよ。


「まあ、これは有名だよねー。私、色んなところで言ってるからね、これ。ここにきて日が浅いレントじゃ流石に無理だったかな。ごめんね。」


違った。

アデラードさんがよく公言してたみたいだ。

でも、どっちみち知らなかったんだししょうがないか。


「じゃ、勝ったクリスハイト君は衣装に着替えてもらうから太守館に行ってね。まあ、勝手知ったる我が家だし、係の人はいらないよね。で、次は織姫を決めようか。というわけで、女性陣は壇上に上がってー。」

「あの、僕は棄権します。」

「私も。」

「私もです。」

「アデル義姉さん。私も棄権するわ。」

「わ、私も……。」

「おーと、ここで棄権者続出だーー!! 理由を聞いてもいいかな?」

「知ってるくせに……。はぁ。恋人のレントが彦星じゃないなら織姫になる必要がないからよ。」

「まあ、そうだよねー。織姫と彦星って夫婦だし、知らない男とペアなんてやだよね。」

「そういう事。それに、全然好みじゃないし。」


クリスハイト君がいなくてよかったな。

聞いてたら大変なことになってたよ。

というわけで舞台から離れてみんなと合流する。


「って、あれ? ユキノ達も?」

「まあ、な。仮に勝っても皆と離れるのは寂しいからな。なんというか、こう、疎外感があって、だな。む、なんだその顔は?」

「別に〜。」


ユキノが可愛いことを言うもんだからついニヨニヨしてしまった。


負けちゃったし、後のお楽しみにする理由もなくなったので係りの人に織姫と彦星になると何があるのかと言うことを聞いた。

まず、この決定戦が終わると太守館が市民に開かれ自由に出入りすることができるようになる。

本戦出場者は優先して入れて、それ以外の人も本戦出場者の次に入ることが出来る。

そこでパーティーを行うそうだ。

で、その中でも織姫と彦星は特別席にて更に特別な料理を食べることができる。

そして参加者に短冊が配られ太守館に用意されている笹に吊るす。

最後の締めに花火が打ち上げられて、織姫と彦星は太守館のテラスから2人きりで眺められるそうだ。

人混みの中で見ずに済むのはいいけど、知らない人と2人きりと言うのは嫌だな。

彦星にならなくてよかったよ。


「棄権して良かったー。みんなと一緒の方が絶対楽しいもんね。」


天使がいる。

流石はセフィアだよ。

そうだよな。

特別よりもみんなと一緒の方がいいよな。


太守館でみんなと一緒に料理を楽しんだり、短冊に願い事を書く。

俺はみんなと一緒に楽しく過ごせますように。だ。

みんなも似たり寄ったりだったが、毛色の違うのが2つあった。

蒼井の伝説になる! と、レイダさんの強くなりたい。だ。

レイダさんはまあ、分からなくはないな。

普段からそんな感じだから。

でも、伝説になる! はちょっと違くね?

というか、アホ丸出しじゃねーか。


そして、みんなと一緒に花火を眺める。


「今日はいろいろあったけど、楽しかったな。」

「うん。そうだね。僕も、楽しかったよ。」


セフィアと雰囲気を出していると、リリン達が寄ってきて両手に花を通り越して周りに花状態になった。

色々ツッコミどころとかもあったけど、楽しかった。

きっと今日のことはずっと忘れないんだろうな。

そんな風に感じる1日だった。

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