第328話 暖かさを思い出す。的なお話

〜アレクシア視点 (出発直後から)〜


今朝のあれって、そういう事よね?

レントは私の事が……す、す、好きって、事よね?

ノーコメントって言ってたけど、あの場面で、あの流れで好きとかじゃないとか、友人としてとかは無いよね。

少なくとも異性として意識してないと、あの言葉は出てこないよね。

ただの友達だと思ってるなら否定できたはずだもの。

……………よし。

オークを克服して、地上に無事出る事ができたら、告白しよう。

セフィアも味方だしなんとかなるはず。

……いや、まあ、奥さんが味方ってのもどうかと思うけどね。

そうと決まれば早速行動開始………って、いやいや、リリン速すぎでしょ。

こっちに魔物回ってこないんだけど。

昨日のアレで矢は無くなったけど、一応探検だって使えるし魔法もあるのに、魔物が回って来ないんじゃ克復しようがないじゃない。


そして何もする事がないまま七階層へと続く階段前まで来た。

どうやらレントは迷賊達をここに置いて行くつもりのようだ。

正直に言えば、上できっちりと裁かれて自分の罪の重さを知り、処刑か犯罪奴隷かは分からないけど、苦しんで欲しい。

それだけの事をしたのだから。

でも、あいつらが足手纏いなのもまた事実なわけで、このままだと私達が危険な目に会うかもしれない。

それは避けるべきだし、その隙を突かれて逃げられるならまだしも襲われたら大変な事になる。

だから私はレントの意見に賛成する事にした。


迷賊達を置いて七階層に向かう。

ここでもリリンが活躍してやはり魔物は私にまで回ってこない。

する事もないし、みんなについていきながらそろそろお昼かな〜なんて考えている時に、隊列の動きが止まった。

どうしたのかと思って奥を覗き込んだ所に、オークが現れた。


怖い。

覚悟してたはずなのに、分かっているはずなのに、身体が震える。

言う事を聞いてくれない。

迫り来る沢山のオークの顔が頭に浮かんでくる。

オークなんて大した相手じゃないのに、上位種だって倒した事あるのに、なのに、なんで身体は動かないの!?

どうして!?

倒しても倒して現れるオーク。

攻撃をかいくぐって、下卑た目を向けてくる、醜悪なオークの姿が頭から離れてくれない。

そうして、私の心の中を恐怖が埋め尽くそうとした所で、レントの姿が浮かぶ。

精霊に頼んで生やしてもらった木を裂き現れたレント。

私達の姿を見てホッとした表情を浮かべるレント。

私達の無事を確かめるように抱きついてくるレント。

そして、ギュッと抱きしめてくれた時の暖かさを思い出す。

そうだ。

私は1人じゃない。

それに決めたんだ。

奥さんがいるとかいないとか関係なく、レントに告白するんだって。

その為にも、こいつを倒す。

そう思って、心を奮い立たせる。

身体の震えは、止まった。

手を開いたり閉じたりする。

ちゃんと動く。

いける。

そう思って前へ出ようとした所で隣から悲鳴が聞こえた。


〜エルナ視点〜


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああーーーーーっ!!!!」


なんで!

どうしてここにあいつがいるの!?

怖いよ。

もうヤダよ。

誰か助けてよ!

なんでまた、こんな……………………そうか、そうだよね。

あれはやっぱり夢だったんだ。

当然だよね。

こんな所に、レントがいるはずないもん。

レントはきっと、今もカインでセフィアちゃん達と一緒に幸せにやってるんだろう。

ああ、なんでこんなことになったんだろう。

私は、ここで死ぬんだ………


「落ち着け!」

「あっ……」

「大丈夫だ! 大丈夫。シアだけじゃない。ここには俺もいる。だから大丈夫。俺が側にいてやる。だからあんな奴に負けるな。」

「レン、ト?」

「エルナは強い。あんな奴、何度も倒してきただろう。大丈夫だ。俺も手伝うからさ。一緒に、打ち勝とう。」

「……………うん。」


夢じゃなかった。

レントがギュッと抱きしめてくれてる。

凄く安心する。

ああ、私はやっぱりレントの事が好きなんだ。


「私も、やるわ。」

「シア?」

「私と一緒に乗り越えよう。ね?」

「うん!」


そういうシアの顔色は少し青い。

でも、決意に満ちた表情をしている。

シアも怖かったんだ。

でも、それでもその恐怖に打ち勝って挑もうとしている。

やっぱり、シアは凄いな。

私も、シアと、レントと一緒に頑張ろう。


「いくよ。」

「うん。」


「「火よ、我が敵を焼き払え。ファイヤーボール!」」


「風よ、我が敵を斬り裂け。ウインドカッター!」


シアの魔法がオークの胴体を斬り裂き、私とレントの魔法がオークを燃やした。

炎とオークが消え、カツーンという音と共に魔石が落ちた。


〜レント視点〜


シアとルナと一緒にオークを倒した。

ルナが叫んだ時はどうなるかと思ったが、持ち直してくれて良かった。

やっぱり事前に説明しておくべきだった。

ルナには本当に申し訳ないことをしてしまったな。

地上に帰ったら何かお詫びをしよう。

何がいいかな。

まあ、上に着いてから聞けばいいか。


この後も時折オークは出現し、その度に2人と一緒に倒していく。

最初の頃はまだ少し怯えが残っていたが、昼休憩を挟んだりしながら進んでいき六階層へと続く階段前に行く頃には問題なく倒せるようになっていた。

明日も倒していけば、深刻化する前に治るだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る