第291話 カッコいい名前的なお話

リリンがあっさりとバカップルの片割れを捕まえたので、何故こんなことをしたのか尋ねる。

あ、俺も一応追いかけたんだけどリリンには敵わなかったよ。


「うぐっ、ひぐっ、え、エカテリーナが。エカテリーナが盗賊に捕まってしまったんだ。だから、それで……」


なんのこっちゃ。

盗賊と精肉店での窃盗の繋がりが全く分からない。

何がだからなのだろうか?


それから泣いている馬鹿に更に詳しく、辛抱強く話を聞いてみる。

そして分かったことはこの見た目は普通でクリストファーという名前だけカッコいい馬鹿と、これまた見た目は普通でエカテリーナという高貴そうな名前の馬鹿の恋人がこの村への配達依頼を受けたら盗賊に遭遇して、あっさり敗北。

その結果捕まってしまったが、こっちに来たばかりの盗賊は食料の備蓄が心許ないとかで、この馬鹿を使いっ走りにして食料を集めさせようとしたとのこと。

しかし、大の大人である盗賊18人分の食料を買うだけの資金もなく、恋人が人質となっているこいつには他人を頼るということが出来ず、仕方なく盗みという手段に出たところで俺達と遭遇したということだった。


と、大体のあらましを聞いたところでいわゆる村の若い衆っぽい人間がこいつを捕まえにやってきた。

だからその人達に聞いた事を伝えて丸投げした。


別にそれくらいの盗賊なら倒せるだろうけど、タダ働きする程こいつらとは親しくない。

シアとルナの為なら悪鬼羅刹のような形相で突撃しそうだけど、こいつらの為にそこまでは出来ない。


村の若い衆っぽい人達には自分達の身分を明かしてるので、依頼されれば倒そうと思う。

依頼されればだけど。

お金なくて無理ならそれはしょうがないということで。


なんだか散歩がてら店の冷やかしという気分も霧散してしまったし、宿に戻ろうかね。

本も色々あるから暇な時間は十分潰せるし、村の人から依頼がくるかもだしね。


そよ風亭でのんびりと本を読んでいると、おねーちゃんの方(名前は知らない)から村長さんが来たと伝えに来てくれたので、礼を言って部屋に呼んでもらう。

依頼、かな?

それともお礼だけかな?


「先ずは盗人を捕まえてくれてありがとう。彼の処遇に関してだが、盗まれた物も無事だし、彼も盗賊の被害者という事で精肉店で暫くタダ働きをしてもらうということになった。」

「そうですか。でも、それを伝えるためにここへ?」

「いや、それはついでだよ。聞いたところによると君達は高ランクの冒険者というじゃないか。」


キタ!


「なので、君達に盗賊の討伐を依頼したい。この村には冒険者ギルドがないから依頼を出して受理されるまでに何らかの被害を覚悟していたが、タイミングよく君達が現れた。だから頼む。村の者達に大きな被害が出る前に盗賊達を倒してきてくれ。」


そういえば、ギルドを通さない依頼って大丈夫なのだろうか?

小説とかだと、違法として追放されたりするらしいし。


「あの、ギルドを通さなくて良いんでしょうか? こういう事になったのは初めてなので、よく分からなくて。」


だから正直にそう告げると、ポカンと口を開けて惚けた後、村長さんはなんか、生暖かい目で見てきた。

なんで?


「そうか。確かに、それは気になるだろう。だが、それならば問題ない。私が署名をした依頼書を持って言って水晶による確認を行えば問題ない。」


水晶って、最初疑われるんかい!

まあ、確かに村長を脅して無理やり署名させたとかあるかもだからわからなくもないんだが、受ける方は釈然としないと思うんだけど。

みんなそういうもんだと割り切るのかな。


「そ、そうなんですか。えと、みんなと相談しないといけないから、返事はもう少し待ってもらって良いですか?」

「それは当然の事だし構わないよ。私は食堂の方で待たせてもらうから、話がついたら教えてくれ。」

「はい。分かりました。」


そう言って村長さんは部屋を出て行った。

俺は受ける気だけど、みんなが嫌だというなら馬鹿には諦めてもらおう。

そう考えながらアカネ達を部屋に呼ぶ。

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