番外編 ホッとしたホワイトデー


朝になって目が覚めた俺は寝ていて固まった身体をほぐす為に伸びをする。

伸びをした後に上体を起こして辺りを見てみると中々にカオスな光景が広がっていた。

何処から取り出したのか、いつ取り出したのか分からない酒瓶が転がっており、その周囲には俺の愛する嫁と、俺をこの世界に連れてきてくれた女神さんとその部下の女神さんが雑魚寝している。


確か昨日は雛祭りでそれでなんだかんだあってちょっとした宴会みたいになったんだっけ。

でも、ちらし寿司やらお吸い物の器やらが散乱しているけど、そこまで酷い騒ぎようだったっけ?

とはいえ、このままというのもあれなので片付けでもするか。


そうして俺は片付けをしようと起きるが、ある一点に俺の視線が縫い付けられる。

それはアリシアさんのファンタスティックなお胸だ。

それが見えそうになっている。

みんな寝てるし少しくらい触ってもバレないのではと訴えている俺の情欲と嫁がいるし、そもそも相手は神なんだから自重しろという理性がガチバトルを繰り広げる。

あっ!武器を使うなんてずるいぞ情欲。と思っていたら理性は魔法を使い出した。

どちらも俺である以上どちらかを応援することは出来ないが、脳内バトルを繰り広げる両者を見守っていると何処からともなく現れたセフィアとリリンによってダブルでノックアウトされた。

そして俺の両肩に二人の手が置かれる。


「ねぇ〜、レント。イッタイナニヲミテルノカナ?」

「カナ?」

「あははは……。ご、ごめんなさい。」


それから俺はセフィアとリリンにお説教という名の注意を受ける。


「いくらアリシアさんが美人だからって、寝ている人の胸を見るのは良くないんじゃないかな。そりゃ〜さ、僕のはアリシアさんほど大きくないけど、でも、どうせ見るなら僕のを見てほしかったな…。」

「いろいろ勝ち目ない。」

「いや、アリシアさんのはたまたま目に入ったというか、男の性というか。でも、俺は好きな女の胸ならサイズなんて関係なく大好きだ。」

「あらあら、随分と大胆ですね蓮斗さん♡」

「アアアア、アリシアさん。いつから起きてらっしゃったのですか!?」

「蓮斗さんが起きる前から♡」

「最初よりも前じゃん!」

「皆さんが寝ていたので、もう少し横になっていようと思っていたら蓮斗さんが起きて、それから……」

「うわぁぁぁあーーん!」



「軽く死にたいです。」


誰に聞かせるでもなくつい独り言を呟いてしまう。

でも、さっきの軽い性癖暴露の関係で宿の部屋は凄く居づらいし…ということで適当にその辺をぶらつく。

はあ〜。

溜息が出てしまうが、あんまりのんびりもしていられない。

後、十日でホワイトデー。

手作りのチョコレートケーキと楽しい時間をプレゼントされたからにはしっかりとお返しをしなければならないし、相手はセフィア達だけではなく、アリシアさんとレイカーさんを合わせて五人だ。

落ち込む暇はない。


とはいえ、何を贈ろう。

確かこういう時に贈るものはキャンディーやクッキーだったっけ。

贈るものにはそれぞれ意味があって、キャンディーは好き、クッキーは友達、マシュマロは嫌いだっけ。

ホワイトデーの元祖はマシュマロなのに……かわいそうだな、マシュマロ。

となると好きという意味のキャンディーにすべきだけど、手作りに対して買ったものというのは抵抗があるな。

でも俺が作れるのは精々べっこう飴くらいだし……どうしよう。

じゃあ、クッキーにするか。

いや、セフィア達は嫁だし妥協したくない。


あ〜、どうしよ〜。

そんな感じで頭を抱えているとアベルさんが通りかかる。

そんなアベルさんを見かけた俺は即座に襲いか……ゲフン!詰め寄る。


「助けてください!」

「はあ!?」


事情を説明して何かアドバイスを貰えないかと思ったが、アベルさんは料理上手だったことを思い出していっその事キャンディーの作り方を教えてもらおうとした。

……したんだが、キャンディーは材料が高級すぎて作れないって。

しょぼ〜ん。


俺が落ち込んでいると気を使ったのかアドバイスをくれた。


「まあ、あれだ。こういうので大事なのは気持ちだからな。気持ちが伝われば何貰ったって喜んでくれるさ。」

「アベルさん……なんか、ありきたりですね。」

「うるせぇよ。」

「あはは。でも、アドバイスありがとうございました。」

「おう。頑張れよ、若人。」

(俺も何か考えないとな。)ボソッ


なんか聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

それは置いといて、気持ちが大事か。

よし。

クッキーにしよう。

幸い手元には恐怖の権化から手に入れた砂糖がある。

それを使ったクッキーを作ろう。

……女将さんに手伝ってもらおう。作り方わかんないし。


そんな感じであっという間に時間が過ぎて、三の月の十四日。

試行錯誤を繰り返して作ったクッキーは喜んでもらえるだろうか。

えーい!男は度胸だ。


「セフィア、リリン、ルリエ。これ、ホワイトデーのお返し。手作りだし、みんなに貰ったのに比べたら雲泥の差だろうけど、精一杯気持ちを込めたから……」

「ありがとう、レント。今食べていい?」

「あ、ああ。」

「それじゃ、いただきます。」

「「いただきます。」」


ドサッ

「ギャフッ!」

「キャッ!」


頭上から降ってくるということはレイカーさんか。

そして潰れている俺の目に映っているのはアリシアさんの足かな?

なのでとりあえずストレージから取り出したクッキーを渡す。


「アリシアさん、レイカーさん。これホワイトデーのクッキーです。良かったら食べてください。」

「ありがとうございます。それとレイカー。早く退いてあげなさい。」

「は、はい。あと、蓮斗さん。クッキーありがとうございます。」


レイカーさんが退いてくれた後、セフィア達を見て食べていいと思ったのだろうアリシアさん達は早速袋から取り出して食べ始める。


「それで、どうかな?」

「美味しいですよ。」

「私も美味しいと思います。」

「ばっちり。」

「今度作り方を教えてください。」

「僕、この味好きだよ。」


アリシアさん、レイカーさん、リリン、ルリエ、セフィアの順に感想を言ってくれる。


そうか。

美味しかったか。良かった。

喜んでもらえてホッとした。

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