第89話 イケメン行動

「お待たせしました」


「おう、お疲れ。……一体何の話をしてきたんだ?」


「フフッ、それは静哉くんにも秘密だよ! ……でも、もうすぐわかると思うけどね」


 江橋さんと戻ってきた涼風がそんなことを言うが、もうすぐわかる事なら教えてくれてもいいと思ってしまった。


 しかし、江橋さんのほうをちらりと見ると、すごい勢いで首を振っているので聞かない方が賢明なのだろう。


「まぁ、いいか。……涼風はそろそろ合流しないとだめじゃないのか? こっちに来てから30分くらいたつ気がするぞ……まぁ、涼風が大丈夫なら俺は別に構わないんだが」


「え? あ、ほんとだ! 通話までかかってきてる! じゃあ私はそろそろ行くね! それと、麗華ちゃん頑張って! でも私は負けないからね!」


「は、はい! ありがとうございます! 私も負けませんから!」


 よくわからないけれど、江橋さんに向けて応援の言葉を残して涼風は去っていった。江橋さんはこれから何か頑張ることがあるのだろう。


 もうすぐわかるらしいが、とりあえずは事情が分からなくてもいいから心の中でそっと応援しておくことにした。


「じゃあ、まずこれ食って片付けよう」


「そうだな。俺の買ってきた唐揚げもどんどん食っていいぞ」


「私のも広げちゃうね!」


 ケバブ、唐揚げ、チーズハットグ、焼き鳥。まさに祭りと言ったらこれといったものが勢ぞろいしている。


 祭りと言えば焼きそばというイメージが昔は強かったが、今はどちらかというとケバブなどの一つでは満腹にならないようなものが祭りのイメージとして俺の中で定着している。


 いくら沢山買っていようと、こちらは食べる人が五人いた。あっという間にテーブルの上に置かれた食べ物は姿を消していき、一つ残さず完食することに成功した。


「ふぅ、食った食った。んっと……今の時間は、おっ! 今から移動すれば近くでいい感じの時間に花火を見れるんじゃないか?」


「確かに! あの人込みを抜けるのは少し憂鬱な気持ちになるけど移動したい!」


「じゃあ移動する準備をしましょう! 雅人先輩このゴミをまとめて捨ててきてください!」


「おうよ! ……って、自然な流れでパシられた!?」


 パシられたとかなんだかんだ言いながらもゴミを捨てに行ってくれる雅人。いつもは雅人の枠に俺が居るから、使い走りにさせられているのを見ると昔の自分の姿を見せてくれているような気持ちになる。


 まぁ、雅人は自分の意思を持って行動する人物だから、美咲から言われていることにただ乗ってくれているだけだろう。


「じゃあ、とりあえず花火が見える場所まで移動するか」


「そうですね。せっかく見るのですからなるべく近くで迫力ある花火を見たいですね」


「そうと決まれば早足だね! 善は急げ!」


「意味が違いますよ! 私は受験生だからちゃんと勉強してるんです!」


 そんな軽口を叩きながら移動を続ける。果たして、俺を頼ると言っている美咲が本当に勉強をしているのかどうかは気になるが、まずは花火が見える場所に移動するのが先だ。


 花火が見える場所というのは、限られているわけではないが綺麗に見える場所は早い段階で既に埋まってしまう。


 だからこれくらいの時間には向かわないといい場所を取ることができない、そう一ノ瀬さんに聞かされていた。


 そのせいだったのだろう。江橋さんがすれ違った人の足に引っかかってその場で転びかけてしまった。


「江橋さん……!」


 俺は咄嗟に手を伸ばし、腕の中に江橋さんを抱き留める。


「ふぅ……大丈夫か? どこかケガとかしてない?」


「え、は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」

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